第34話 また会おうって言ってからすぐに再会するほど気まずいものはない


 緊急招集の令が発されてから間もなく、マリアの案内によって俺とコルウェットの二人は冒険者ギルドダマサク支部へと移動した。


「王都が落ちたって……どういうことだよ、マリア!」

「すいません、ルードさん。事が事なのでここではまだ」


 移動中もそうだったが、俺たちに告げた以上のことを教えてくれないマリア。ただ、それも仕方のない話だ。話題の渦中となる王都コーサーは、現在低国ヴィネという世界でも最大級の話題の中心地点。多くの冒険者が――言い換えるならば、腕に自信のある人間がこぞって目指した地であるのだ。


 そして、国家と連携し未開拓地を開拓していく冒険者たちが、国同士の争いならばまだしも、国の存亡がかかった異変に手を貸さないわけがない。


 国境付近にあるダマサクや北の貿易都市が、或いは西の地の異変が報道されていない以上、この異変はどこかの国からの攻撃というよりも、自然災害じみた魔物災害であると考えるのが普通だ。


 そして、その普通に行きついた考えの先に、低国ヴィネを目指すような腕自慢の冒険者たちの手に負えない事態が起きたと考えるのが普通だ。


 そんな考察が簡単に成り立ってしまう情報を、白昼の往来で語ったところで混乱を起こすだけ。それに、冒険者ギルドには今回の招集令がかけられていない真二級以下の冒険者たちだってたくさんいる。


 彼女の口から語れないとなると、ギルド側が不用意な混乱を予防するために箝口令を敷いていると考えるべきだろう。


 ただ――


『これを見ていただければ、今回の異変の深刻さがわかると思います』


 道中でマリアがそう語り俺に渡してきたのは、超小型の魔道具。それは、彼女がこの旅路で後生大事に抱えていた鳩の足に付いていた、鳩の安否がギルドへと伝えられる魔道具の子機であった。


『この魔道具は所有者の安否を親機に伝えるものです。しかし、その逆もまた可能。親機の危険を子機へと伝える役割もあります。この意味は、わかりますよね?』


 鳩に装着されていた時は、ひたすらに沈黙していた魔道具が、親の危険を知らせるように赤く点滅していた。


 それが示すのは――あのギルドに何かが起こったということだけ。王都が落ちた、という荒唐無稽な話にも、信憑性が出てくるというモノだ。


「……ルード。あなたも招集されていたのですね」

「別れの挨拶からの再会っていうにはちと早すぎるけどな」


 ギルド職員たちの焦りが伝わってきているのだろう冒険者たちの騒めきの中で、俺の後ろに現れたのはナズベリー。実に二時間ぶりの再会とは、また会おうなんて気障きざったらしく別れの挨拶をした俺の羞恥しゅうち心がマッハだ。


 そうして出会ったナズベリーの後ろには、真一級として同じく呼び出されたであろうブルドラも居る。そして――


「なんでモアラも居るんだ?」

「話の詳細はお聞きしましたわ。……王家の人間として、この事態は見過ごせません。例え死地に赴くのだとしても――私は、安全な場所で何もせずにじっとしていられない性分でして」

「そうか。いや、そうだな」


 そうか。王都が落ちたということは――少なくとも、王族であるモアラの親に何かがあったということだ。そして、彼女は護衛も引き連れずに旧都にある王族のための屋敷から抜け出すようなおてんば姫。大人しく縛り付けておくなんて不可能だ。


 ただ、彼女のその手は震えていた。


「モアラ。大丈夫よ。きっと。もし、大丈夫じゃなかったとしても――私が、私たちが何とかするから」

「……ありがとうございますわ、コルウェット。ですが、これでも私も王族の端くれとして、それなりの戦闘術を覚えているつもりですの。お荷物になる気なんてさらさらありませんわ」

「ふふ、そうね。期待しているわ」


 恐怖か怯えか、震えるその手をコルウェットは取って、モアラに大丈夫と言葉を掛けた。そんなコルウェットに鼓舞されるように、モアラは背中に背負っていたボウガンを見せつけて、自分は大丈夫だと示して見せた。


 そう、振舞っていた。


「しかし、以外にも人が集まっていますね」

「だな。俺たちを除いても十人はいる。逆に言えば恐ろしいよ。これだけの実力者が集まらなきゃ、安心できない事態ってことだからな」


 ぼそりと呟かれたナズベリーの言葉に俺が返答する。騒然とする冒険者ギルドの中だが、今回の緊急招集の令によって集められたと思しき冒険者たちははっきりとわかる。


 有名、というわけではないが、それでもその佇まいから、纏う魔力から、身に着ける装備品から、彼らが準一級を超える実力者であることがわかる。


 そんな人間が十一人。俺たちを合わせて(モアラを除いて)十五人になったところで、ギルドの奥から長身痩躯の男が姿を現した。


「案内を」

「はい」


 彼の言葉に従って、俺たちはギルド職員に案内されて奥の個室――おそらくは、防音の仕掛けが施された会議室へと案内される。


 魔道具によって立体的に表示された地図を中心にして十五人の冒険者が集められ、全員が集まったことを確認してから、長身痩躯の男――ダマサク支部のギルド長は口を開くのだった。


「それでは、これから緊急招集の令によって依頼された『王都奪還作戦』についてお話しします」


 王都奪還作戦。調査ではなく奪還。


 それはつまり――王都が、何者かの手に落ちたということだった。


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