第15話 試験開始
冒険者には階級が存在する。
下は五級。一番上は真一級と、例外を除いて全14段階が存在し、数字が小さくなるごとに、割り当てられる依頼は危険なものになり、しかしてその見返りは素晴らしいものとなっていく。
まずたいていの冒険者のスタートは五級から。そこから功績を認められて、真五級に至り、昇級試験を受けることで新米の四級冒険者という準四級の称号を経て、四級の冒険者として認められるようになる。そこからは同じ手順で、無印→真→準→無印を繰り返し、頂点にそびえる真一級を目指して階級を上げていくシステムになっている。
そして、これから俺が受けるのは、そのシステムに加わるための試験。
つまるところ、その人間が本当に冒険者として名簿に登録される価値があるのかを試す場、それがギルド登録試験である。
「目指すは四級だな」
「そうね。できることならば一級の方がいいのだけれど……」
「それじゃあ、素顔とか隠してる意味がないだろ」
「そうよねぇ……」
また、階級が異なれば受けることのできるサービスも変わってくる。それこそ、高い階級ともなれば冒険者ギルドからの好待遇を期待できるというわけだ。
高級ホテルやレストランなんかは、そういった階級の高いギルドカードを提示しなければ入れないところがあるほどだ。
そして、そういった施設が利用できるようになるのが四級から。要は、冒険者としてある程度の功績を上げて認められてから、というわけだ。
肝心のそんなギルド登録試験だが、問題はないはずだった。はずだったんだ……。
「あの男がまともに試験官をやってくれると思えねぇんだよなぁ……」
本来であれば、ギルド登録試験の試験を担当するのは、ギルドが選んだベテラン冒険者――準三級~準二級までの冒険者だ。二級以上はそもそもの数が少なく、またギルドから仕事を割り振ってもらわなければいけない程、仕事がないわけでもないため、基本的には準二級以下の冒険者が担当することが通例となっていた。
そんな通例に横紙破りで入って来たのが、件の男――『
彼の目的は、おそらく俺からコルウェットの話を聞きだすことだ。ギルドでコルウェットのギルドカードを作るためにうっかり口を滑らせてしまった俺の言葉を、地獄耳で耳聡く聞きつけたあいつは、なにやらコルウェットを姫様と呼ぶほどにはコルウェットに執着している様子。
その理由は定かではない、が。あいつが俺が冒険者として登録できたら何も聞かなかったことにすると言った以上、俺が試験に合格できない様に仕向けてくることだけは確かだ。
「一応聞いておくが、筆記の方はどうだったコルウェット」
「現実逃避してるところ悪いのだけれど、多分大した問題になるとは思わないわよ」
「そう?」
「当り前じゃない。もう少し自信を持った方がいいわ、あなたは。そうね、事の結末は大方、自分の目論見が達成できなかったブルドラが大暴れするってところかしら」
「えぇ……」
試験会場となるコーサー郊外の荒野にて、
どこぞの悪魔のように未来を読んだコルウェットの予想は果たして。
それと、すでに試験は半分終わっている。一時間を使った、冒険者としての知識を確かめる筆記試験は、その実すでに冒険者として大成しているコルウェットや、実力こそないものの真一級パーティに在籍していた俺には簡単なものだった。
そうして筆記試験をパスした受験者は、俺たちを含めて九人。既に試験は次のステージ――実技試験の試験会場へと移っている。
これから始まる実技試験に備えて――そして俺は、おそらくは俺を脱落させるためだけに用意されるであろう大舞台に備えて、試験官が訪れるのを待っていた。待ちわびていた。
そうして待つこと十分。随分と長い待ち時間を経て訪れたのは、六人の冒険者パーティー。その先頭を歩くブルドラによって、彼らの正体は明かされた。
「やあ、新米冒険者の卵たちぃ。改めてぇ、俺はかのソロモンバイブルズに務めていた冒険者ぁ、その名も『
ブルドラの登場に騒めく受験者たち。それもそのはず、ブルドラは真一級の冒険者――つまるところ、現役でダンジョン攻略最前線を走るベテラン冒険者が訪れたのだ。
自分たちの遥か先を行く偉大なる先輩の登場は、彼らの興奮を最高潮へと引き立てた。
「意気がいいのはいいことだぁ。だからさっさと始めよぅ。始めてしまおぅ」
どういうわけか、受験者以外のギャラリーが試験会場に現れる。岩場に腰掛けた彼らの目的はわからないが、皆が皆好奇心を胸にブルドラと――そして、俺を見ていた。
おそらくは、昨日の騒ぎを聞いていた連中と、その騒ぎを聞きつけた連中なのだろう。あの眼帯の冒険者も居るしな。
そして、ぐるりとギャラリーを見渡したブルドラは言った。
「試験内容は、俺たちと戦うこと。勝たなくていい。負けてもいい。最前線を走る俺たちが、君たちの試金石となってあげよぅ」
考えうる限り最も面倒くさく、そして俺の合格が望めない試験内容を奴は言ったのだった。
ああ、めんどくさいめんどくさい。だってそうだろう? この試験をクリアするためには、試験官を納得させる必要があるんだ。自らの力を示し、十分だと認めてもらう必要があるんだ。
そんな中、俺を落とそうとしている男が、納得してくれるわけがないし、認めるわけがない。
「ほら、簡単じゃない」
「どこかだよ」
俺の横で簡単そうにそう言うコルウェットを睨みながら、俺は大きなため息をついたのだった。
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