第14話 需要と供給が比例しているのかわからない


「――と、いうわけで、面倒なことになった」

「なんでそんなことになってるのよ。そして、どうしてブルドラの奴はルードのことに気づいてないのよ」

「コトワなら、あいつの性格をよく知ってるだろ? お前の顔ならともかく、無能で無用だった俺の顔を覚えてなくても不思議じゃない」

「はぁー……確かにそうね」


 冒険者ギルドであった色々を合流したコルウェットに話してみれば、呆れた顔でため息をつかれてしまった。ため息をつきたいのはこっちなんだけど。


 いやまあ、俺の不注意でああなってしまったことは否定できないが。


 しかし――


「なんだそのお面。どこで手に入れたんだよ」

「ふふん、かわいいでしょ」


 冒険者ギルドの前で合流したコルウェットは、何やら妙なお面を付けていた。ピンクと白と赤の装飾が施された、ピンと立った二つ耳が特徴的なお面――


「空を飛び地を引き裂く雨裂貴うさぎのお面よ!」

「ずいぶんと変なチョイスのお面だな……しかし、金もないのにどうやって手に入れたんだよ」

「これでも私は超一流の真一級冒険者よ? 半年居なくても解体されない、秘密の口座ぐらい持ってるわよ」

「そういうもんか」

「ええ、そういうものよ。一流を目指すのならば、ルードも覚えておくことね」


 と、どうやら俺の換金を待たずして、金を調達する方法をコルウェットは持っていたらしい。


「にしても、よく私を普通に見つけたわね」

「そりゃ、収穫祭でもなければヴィネでもあるまいし、そんなお面を付けてたら目立つにきまってるだろ」

「そういうモノかしら? 一応、これ認識阻害の魔道具なのだけれど……」

「んー?」


 聞くところによれば、眼鏡一つで変装した気にはさすがになれなかったコルウェットが、わざわざ魔道具店に足を運んで買ったものらしい。


 装着すれば、人の目から自然と外れる魔力が放たれているのだとか。確かに、周囲を観察してみれば、お面を付けた奇特きとくな格好をしたコルウェットのことを気にする人間が見当たらない。


 流石にじっくり見てくるような奴はいないとは思うが、二度見三度見とちらちらしてくる人間もいないとなれば、お面が魔道具であることは確かなようだ。


「まあそこまで高い買い物ではなかったし、効果が薄いくても仕方がないか」

「どちらにせよ、あの伊達眼鏡よりも効果があることは確かだな」


 お面の認識阻害効果が薄いのか、それとも世界のルールから外れた俺が悪いのか。どちらにしろ、意味のある買い物であったことは間違いない。


「さて、と。とりあえずお前の分の申請書も出しといたけど、明日の試験は実技をブルドラが務めることになってるから、一か月先延ばしにしてもいいんだぞ?」

「いえ、明日のギルド登録試験は私も参加するわ。このお面もあるし、それに一か月も172層を空けてられないでしょ? そんなに待たせてたら、またバラムが誰かを突き落としに地上にやってくるわよ」

「次こそは落下地点でミンチになってそうな話だな、それ……」


 俺もコルウェットも、13層から172層まで落ちて生きていたのは奇跡と偶然の産物だ。もし次があったとして、落ちて来た人が生き残れるとはさすがに思えない。


「ああそれと、宿の予約はしておいたわよ。それなりのところを二つ」

「おお、助かる。別に俺は高級志向ってわけじゃないから、普通の宿の方がありがたいよ」

「それはどうも。それじゃあ、明日のために英気を養って備えましょうか」


 そう言って、コルウェットは1万ゼーロコインがじゃらじゃらと入った小袋を取り出した。


「おいしいお店を知ってるのよ」

「そりゃ気になるな。こっちにいたときに、そういうところを巡る余裕なんて俺にはなかったから余計に」


 とりあえず、俺たちはコルウェットが案内するおいしいお店を回ってから、明日に備えてとっていた宿に移動し、夜早くに寝着いたのだった。




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