第10話 飢えて参ります
13層から地上までの道のりは、もちろんのことながら苦戦することもなく楽々と通ることができた。
かつて仲間の、それこそコルウェットの後ろに隠れていた時代を思えば、本当に俺は強くなったんだなと感じる。
そんなわけで地上へとたどり着く。。
「……一年ぶりの太陽だ」
「私にとっては半年ぶりね。こう、何か浄化される感じがするわ……」
低国ヴィネの洞窟を抜ければ、多くの冒険者が行きかう道を通り、地上に出ることができた。コルウェットは半年、そして俺は実に一年ぶりの地上である。
太陽がまぶしい。
にしても――
「なんか人多くないか?」
「当り前じゃない。13層に
「相変わらずだな、お前……」
なんというか、久しぶりに聞いたな、コルウェットの高圧的なこの態度。今回こそ口調が向けられる先が俺じゃないからいいけど、少し身震いしてしまった。
こいつのこれも、幼少期に家庭の事情で自由に遊ぶことができずに、ただ強い冒険者であれと強要され続けた反動なんだろうけど。
かつての俺みたいに、頑張ったところで何にも実らなかった奴も居ることを忘れないでほしいもんだ。
あと、余談だがゼーロとは世界共通金貨の単位のことだ。大体1000ゼーロもあれば、昼食に皿いっぱいのサラダに、肉がごろごろと入ったスープまで注文できるぐらいだ。
「さあさ! こんなところでちんたらしてないで、さっさと街に行くわよ! まずはパンケーキ! パンケーキが食べたいわ!」
「そういえば地下には甘味は無かったからなぁ」
「そうよ! 今の私はもーれつに甘さに飢えているのよ!」
低国の最深部には、ダンジョン内とは思えないほどに色々なものがあったが、もちろんなかったものもある。それが砂糖だ。
砂糖の原料になるような植物が群生してなかったのが原因だな。んでもって、流砂の国は塩は安いが砂糖は高い。そこまでの量を一気に買うには金が必要なのだとか。
あと、ヴィネが甘いのは苦手なのだとか。そんな諸々の理由から、あんまり172層には甘いものが置いてなかったのだ。
そうしてこうして、今現在のコルウェットは、甘い味付けに飢えている。
「とりあえずギルドで素材を換金してからな」
「ああ、そういえばそんな話だったわね。それじゃあルード、素材を換金してくるのよ!」
「お前もな。ああいや、ギルドとなると俺がいった方がいいのか」
「そうよ。生憎と私は有名人だからね。ギルドとなれば知り合いも多いし、バレたらバレたで騒ぎでしょ?」
「それもそうだな。じゃあここでいったん別れとくか?」
「そうね。半年も居なかった間に代わった街の様子も見ておきたいし……今から一時間後にギルド前の広場に集合ってことで」
「りょーかい」
さて、そんなわけでコルウェットが街を見ている間に、俺は冒険者ギルドに立ち寄って、高く売れそうな魔物の素材を換金することになった。
手持ちは、38層で狩ったケイブウルフの毛皮と82層の手のひらサイズの水晶が五、六個ってところか。ケイブウルフの毛皮は、群れの大半をコルウェットが焼き払ってしまったため、綺麗に捕れたのは数枚程度。
そのうち二枚を俺はライムたちから頂いて、残った素材はすべてライムたちへと渡してから、地上へと上がって来た。
金はあっても困らないが、だからといってたくさん抱え込んでも仕方ないからな。
「ギルドに知り合いには、生存報告ぐらいしておくか」
マリアをはじめとした、顔見知りの顔を思い出しながら、俺は流砂の国アビルの王都にある、旗と剣の看板が示す冒険者ギルドを目指して歩きだしたのだった。
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