第9話 人のこと幽霊って言うのやめてくれますぅー?


 13層に足を踏み入れた(リフトで上がって来た)俺がまず初めに思ったことは、明るい、というなんとも味気のない感想だった。


「なんかすごい発展してる……」


 と、流石のコルウェットも引き気味だ。


 さて、13層に何があったのかといえば、簡単に行ってしまえば村と言って差し支えない程に発展していた、ということだな。


 リフトから降りてすぐのところは、ダンジョンへと下るためのこの村? の門であるらしく、多くの冒険者が下層を目指して隣にある大型のリフトへと乗り込んでいるところだった。


 その奥を見れば、明らかに冒険者ではない子供連れの女性や、商人らが街角を賑わせていた。


 村――いや、ここは一つの街といってもつかえない様子である。


「低国ヴィネ13層街って呼ばれてるよ、ここは」

「ずいぶんな発展の仕方だな、おい」

「そりゃそうさ。ここが低国ヴィネの攻略最前線。冒険者のための街。そのために発展した街だからさ」


 またもや消音の魔法をさりげなく使うザクロは、何も知らない俺に対してそう説明する。


「その感じ、本当に一年前に居なくなってから、ここまで戻って来たわけじゃなさそうだな」

「そうだよ。なんならダンジョンの一番深いところまで行ってきたさ。そりゃもうでかくてやべぇ魔物が出てきて死にかけたぜ」

「もしかして半年前の大地震はお前が原因だったりするか? ヴィネの街並みも破壊したあのやべーやつ」

「さてな。知りたいならもっと深くに潜ることをお勧めするよ」

「ハハッ、冗談じゃねぇや。お前の言葉は冗談かもしれないがな」


 そういうザクロはケラケラと笑った。


「おい、ザクロさん。密談みつだん中悪いが、ちょっといいか?」

「おう、いいぜリーダー。俺としちゃあ、別に魔法を使う必要もない他愛もない話だったから、ちょうどよかったぜ」


 そうしてザクロと話しているうちに、今度はライムが俺に声をかけて来た。


「なにか用か?」

「いや、少しきたいことがあって。俺はつい半年前にこのダンジョン来た新参者だから、あなたたちのような凄腕の冒険者の名前も全部頭に入ってるってわけじゃないんだけど……ルードさん。あなた、昔俺と会ったことある?」

「いや……会ったことは無いと思う。多分だけど」


 ライムの問いかけに記憶をめぐらせてみるが、俺の記憶にライムらしい人間は一人も居ない。

 そのことを正直に伝えてみれば、彼は素直に「そうか」と言葉を返した。


「魔力、というか戦い方、というか……まあ、あなたの雰囲気をどこかで見たことがあるんだよな……」

「そりゃもしかして、デジャヴってやつかいリーダー」

「かもしれないな。どちらにせよ、俺からもあなたの顔に見覚えがないとなれば、本当に気のせいなのかもしれない」

「ま、そういうので何か感じたことがあるってんなら、俺と似たような奴にライムが昔会ったことがあるのかもな」


 俺の家族とかな。元を付けたいぐらいだけど。


「さて、リーダー。談笑だんしょうにふけるのもいいが、さっさと帰るとしようぜ。ギルドの方に伝えてある帰還予定も大幅に遅れてることだしよ」

「確かにそうだ。じゃあルードさん。改めて俺たちを助けてくれてありがとう。何かお礼をしたいところだけど、今のところ大した持ち合わせがないからまたいつかにさせてくれ。ギルドの方で名前を出してくれれば連絡が付くと思うから、何か困ったことがあれば……って言っても、あなたほどの実力があれば、そうそう困ることなんて無さそうだけど」

「いやいや、強いだけじゃどうにもならないこともあるよ」


 自分よりも強い奴にぶちのめされたりとかな。バラムとかみたいに。いや、あの時は奇跡的に勝てただけで、多分俺はバラムよりも強くはないけどさ。


「まあなんかあったら連絡する。そん時にライムが助けてくれればいいさ」

「そう言ってくれると助かるよ。それじゃあ……おーい! そろそろギルドに戻るぞ」

「「はーい!」」


 コルウェットと話していたアケビとモモへと声をかけたライムは、13層のギルドのある方向(おそらく)へと歩いて行った。


 ただ、一人だけ。

 ザクロだけが、息を潜めて残っていた。


「これは……まあ、あれだ。一言だけ」

「なんだよ」

「ギルドの方針は、魔物の脅威から人を守ることだ。それだけは覚えておいてくれよ」

「わかってるよ。別にギルドを恨んでいるわけじゃないし、復讐をしようってわけじゃない。そもそも、俺の今の状況を見れば、昔と違うことぐらいはわかるだろ?」

「だな。それじゃあ、彼女ちゃんと楽しい冒険者ライフを」

「彼女ちゃんねぇ……俺とあいつはそんな関係じゃないんだが」

「そうだよな。俺が知る限りじゃ、あの子はお前のこと嫌ってたしな。どうして一緒に、それも連携を取れるほどいいコンビネーションで戦えてるか不思議でしょうがねぇぐらいだ。ま、深く詮索せんさくはしねぇから安心しな。それじゃあ、また」

「ああ、また」


 どうやら俺だけではなくコルウェットの方にも気づいていたらしいザクロ。そんな彼が残した言葉は、おそらく俺がギルドに復讐するのではないか、という不安の元、語ったことだろう。


 意訳いやくすれば、「お前がパーティでいじめられていたことに、俺たちギルドは関係ない」ってところか?


 知ってるよ。なんたって、あんたらのところの優しい受付嬢から、あのパーティに居るのはやめた方がいいってアドバイスを何回もされてるからな。


 生憎と、あのパーティに居たのは俺の私情ゆえだし、それをギルドのせいにしようとも、ソロモンバイブルズのせいにしようとも思ってはいないから安心してほしい。


 ま、見返したくはあるけど。


「何話してたの?」

「俺がいじめられた恨みつらみから蘇った冒険者の亡霊じゃないかって疑われたところだ」

「なにそれ。傑作けっさくね。貴方は殺そうとしたって死なないのに」

「だな。さて、それじゃあ俺たちも地上を目指すか」


 そうして、俺たちも自分たちの目的のために地上を目指して、13層の入口へと歩いていくのだった。


 そういえば、あの受付嬢さん元気かな。確か名前は……マリア、だったっけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る