第6話 現状確認


「うーん……本当にこのスキルの効果っぽいな」


 120層から駆け上がること数時間。花騎馬の加速を利用して、コルウェットの魔力が続く限りダンジョンを駆け上がってみれば、早くも82層までたどり着いた俺たちだ。


 コルウェットいわく、まだまだ走ることができるそうだが、流石に数時間も花騎馬を維持いじし続けるのは疲れただろうし、疲れ果てて戦えなくなってしまうのもまずいと言うことで、ひとまずはこの82層で一晩を過ごすことにした。


 低国ヴィネの壁面へきめん洞窟どうくつには、階層ごとに様々な鉱石こうせき植生しょくせいの環境が広がっており、この82層は水晶窟すいしょうくつとなっているようで、透き通った青緑の水晶が、ダンジョンの中の光を乱反射させて美しく光り輝いている。


 もちろん、ダンジョンにできた水晶となれば、高純度の魔力を含んだ値打ち物であることは必然ひつぜん。なんだかんだ無一文むいちもんの俺らは、地上に出たときの軍資金ぐんしきん代わりにと、いくつかの水晶を懐に入れている。


 そうしてこうして82層の水辺にて、仮眠をとるコルウェットの隣で干し肉をかじりながら、寝ずの番のついでに俺は自分のスキルを見ていた。


●〈スキル開示〉

・名:ルード・ヴィヒテン・S

・保有ジョブ

 〈簒奪者スカンディア・ウルトル

・保有スキル

 ―〈重傷止まり〉

 ―〈王の器〉

 ―〈玉座支配〉

 ―〈不明〉


 一年前と比べれば随分ずいぶんと明らかになった俺のスキルだが、その効果はあまりにも不明瞭ふめいりょうだ。

 そもそも、スキルの効果を知るためには創造神ゴエティアにつかえる神官からの鑑定が必要で、天賦スキルともなれば神官がいても効果がはっきりとしないものもある。


 俺の〈不明〉がいい例だな。子供の時に見てもらったら、『ふぅむ、文字がかすれてよく読めないな。本当にスキルとして存在しているのか?』なんて言われたのをよく覚えている。


 そんな俺のスキルも、既に三つが明かされた。うち二つは効果がよくわかってないけどな。一先ひとまずジョブはいておいて――


 〈重傷止まり〉

 こいつにはずいぶんと助けられたな。おそらくは自動発動系の常在じょうざいスキルってところか。魔力が続く限り、死ぬような攻撃を受けても重傷で止めてくれるっていう優れたスキルだ。


 172層にいるうちに魔力が上がった気もするし、おそらくはこの先もお世話になるであろうスキルだ。


 次に〈王の器〉

 推測でしかないが、おそらく特定条件を満たした人間とスキルをやり取りすることができるスキルってところか? それも、俺が王という立場で、だ。

 バラムとの戦いで死んだコルウェットが対象に選ばれて、俺は彼女のスキル〈花炎姫エレガンスフラワー〉をした。――徴収ちょうしゅうした?


「そういえば確かあの時、アナウンスは徴収したって言ってたよな……」


 徴収という言葉は、スキルをやり取りすると言うにはあまりにも野蛮やばんな言葉だ。どちらかといえば、彼女からスキルをうばったと言いえられる言葉である。


「コルウェットのスキルもそうだけど、対象に選ばれる条件もわかってないんだよなー」


 コルウェットのスキルに突如とつじょとして出現していた〈王の器に連なるもの〉というスキル。スキルの中には条件を付けて、相手に影響を残すものもあるが、天賦スキルとして登録されるとなると、噂に聞いたことすらない。


 そして、そんな訳の分からない〈王の器〉の次に獲得したのが、〈玉座支配〉というスキルだ。


 こっちは、〈王の器〉よりかは取得条件はわかりやすい。おそらくは、ダンジョンの主になったことがトリガーとなって、獲得かくとくしたものだと思われる。〈重傷止まり〉が進化する前のスキル、〈瀕死止まり〉が開花したのが、俺が死んだ(と思われる)時。となると、このスキルはダンジョンの主として、ダンジョンを支配するためのスキル――という公算こうさんが高い。


 そして、俺たちが120層から82層まで一気に駆け上がることができた理由――階層を上がるための(本来は下るためのものだが)階段へと俺たちを案内してくれたあのナレーションこそが、このスキルの効果と考えて間違いはないだろう。というよりも、そうとしか考えられない。


 〈重傷止まり〉は俺に。〈王の器〉は他者に。となれば、ダンジョンに影響を与えている――というか、ダンジョンに関係するスキルとなれば、〈玉座支配〉ぐらいだろう。


 問題は、ヴィネが言っていたダンジョンの主ならば、階段もわかるだろうという言葉に関係するのか、という疑問だが――まあ、深く考えすぎても、俺の持ってる情報じゃあ答えは出ないか。


 最後に――


「本当に何だよこれ」


 ジョブ〈簒奪者スカンディア・ウルトル


 ジョブとはその人間の成長の方向性を決める称号のようなものだ。こちらは天賦スキルとは違い、後天的に自らのステータスに書き加えることができるもの。ヴィネの言葉をりるとすれば、そういうルールなのだろう。


 問題があるとすれば、これの元の名前であった〈不明者〉というジョブを、俺は生まれたときから所有していたということだな。


 先ほど言った通り、ジョブはその人間の成長性――つまり、スキルの取得や能力や技能の成長補助などに影響する。


 例をげれば、〈農耕者〉というジョブがあったとすれば、ジョブを持っていた方が農耕のうこう関係のスキルを取得しやすく、また畑を開墾かいこんするにあたって重要な体力や筋力が成長しやすくなると言った感じだ。


 これが〈剣士〉なら剣に関係したスキルと身体能力が高くなりやすく、〈魔導士〉なら魔法系のスキルや魔力が高くなりやすい。


 しかし、簒奪者スカンディア・ウルトルってなんだよ。少なくとも、ダンジョンの主なんてものを担ってる俺は簒奪さんだつされる側な気がするが――いや。思えば、この座もダンジョンボスから簒奪さんだつしたものだった気がする。


 問題は、ジョブとは通常スキルを習得しやすくしてくれるものであって、俺はどういうわけか、世界のルールから外れて、肝心かんじんの通常スキルを取得できないのである。


 じゃあ、このジョブはいったい何なのか。


 これがわからない。


「うーん……?」


 やばいな、考えすぎて眠くなってきた……。


 ちょっと息抜きに、ヴィネから貰った武器の訓練でもするか。

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