プロローグ②
ダンジョンの
バラムとルードが
「んっんー……バラムの奴、なーにやってんだか。戦闘系の悪魔じゃないってのに戦場に出ちゃってさー。俺様たち
それは
「……あれ、人間だよな?」
炎を纏い悪魔を一方的に殴る人間を見て、彼も思わずといった様子で言葉を
「ありゃー、バラム負けちまった。ってことは、あれがヴィネの王位候補かな? あの引きこもりが、これまたすごいものを見つけやがってよー……ま、うちのも負けてないけどさ」
終わった戦いに
「まあいいさ。王に認めてもらうのはこの俺様――ベリアル様の仕事だからな。それに、感じねぇんだよな、あいつには。俺様をピリリとさせてくれる何かがよ」
改めてルードの顔を見たベリアルは、バラムにとどめを刺せるのに、とどめを刺さないルードの甘さに
「気を付けろよヴィネ。俺様と、俺様の王位候補は、そんなに甘くねぇからさ」
そう言ったベリアルは、ダンジョンの影の中に消えていった。
その男の存在に気づいたものは――
「攻略されちゃったかー、ここ。それじゃあ、僕は手を引こうかな」
低国ヴィネの天蓋付近に空いた13層の崖際で、消えたベリアルを見ていた男が一人いた。
「はてさて、彼は何を見たんだろうか。まあ、悪魔の考えが、人間
その男の名は、エルモルト・ナーガン。
またの名を、ソロモンバイブルズのリーダーである男だ。
「しかし、誰が攻略したんだろう。コルウェット君かな? 彼女の天賦スキル面白かったしなー。まあ、誰だろうと関係ないか。さてさて、次はどこのダンジョンが攻略されるかな」
彼は仮面を被っている。それは、超一流の冒険者を
「ベリアルはどっかに行っちゃったよ、ゲル。君はどうする?」
人間としての仮面を被った彼は、背後に立っていた少年――ゲルアーニへと声をかけた。
「どうもしませんよ。俺としては、あいつとはギブ&テイクの関係なんでね。それよりも……先輩は生きてたんですか?」
「さてね。今の僕は人間だからわからないんだ。ま、どちらにせよこのダンジョンに用事は無くなっちゃったから、僕は手を引こうと思ってる。ソロモンバイブルズも解散かな。最高難易度ダンジョンが二つも攻略できたんだ。運命の流れは
「冗談はやめてくださいよ。僕だって欺場ベリアルを攻略したの結構苦労したんですからね」
「ならばこそだよ。神々の目的は既に
そう言いかけたところで、エルモルトの言葉は止まった。
その思考の裏に
「あれ、結局何だったんだろうなー」
彼の実家の意向もあり、そして自分自身が抱いた興味もあってパーティーに
いや、死体は確認していないが。どちらにせよ、不明ばかりで何もできなかった彼に、1500メートルの高さを生き残る術はない。
だからこそ、彼は問題と言いかけて、しかして口を
「とにかく、君はこれから自由だよ、ゲル。まずは初めに世界を旅するといいんじゃないかな?」
「そうですね。低国は
「それはいい」
そう言ったエルモルトは、最後の
「ああ、一つだけ」
「なにかな?」
「落とし穴はどこにでも存在します。例えばそう……死んでいたと思っていた人が、生きていた、とか。もし何か不安があるのならば、疑うべきですよ」
「そうか。それなら
「わかりませんよ? 僕は、この言葉に巣食われて、あの欺場を攻略したのですから」
「そうかい。ならばこそ、覚えていようかな。それじゃあ、いい旅を」
「ええ、そうですね。またいつか会いましょうか」
別れの言葉を告げた次の瞬間に、エルモルトはその場から消えていた。崖際から下へと落ちたわけではない。最初からそこに居なかったかのように、消えてしまったのだ。
そしておそらくは――その存在そのものが消えてしまったに違いない。
ソロモンバイブルズというパーティーは消え去り、そのリーダーの情報はすべてが
だからこそ、ゲルアーニは笑った。
「待ってますよ、先輩♡」
――序章 完
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