第37話 友達になろうよ


大方おおかたぬしのスキルの力だと思っていたのだが、違うのか?」

「いや、俺は――」


 コルウェットが生きていた。いや、心臓をき手でつらぬかれていた時点で、確実に絶命ぜつめいしたはずなのだから、どちらかといえば蘇生そせいしたといった方が正しいのだろうけど。


 しかし、ヴィネが何もしていないというのなら、俺の力が原因なのか? そんなわけないだろ。俺は自分自身の死を食い止めるスキルこそ持ってはいるが、ソレは他者たしゃ譲渡じょうとできるようなものじゃない。


 だから、俺の仕業しわざなはずが――


――『スキル〈王の器〉の条件を達成しました。対象名『コルウェット・ムジナ』よりスキル〈花炎姫〉を徴収します』


「………………」

「その顔は、何か思い当たることがあった顔だな?」

「いや、わからん。わからんが――」


 戦いの最中で流れ込んできたあのアナウンス。スキル〈王の器〉なるものを獲得かくとくした後に、コルウェットの〈花炎姫エレガンスフラワー〉を俺に受け継がせたあのスキル。


 もしも、あのスキルの影響えいきょうで、俺の〈重傷止まり〉の効果がコルウェットに伝わったのなら?


「……まあいい。おい、ルード。考えるのはあとにしろ。お主にはやってもらうことがあるからな」

「やってもらうこと? 待ってくれよ、俺は連戦続きでへとへとなんだよ」

「そうしてやりたいところはやまやまだが、面倒なことに時間がない――」


 ヴィネがそう語ったところで、俺の全身がれた。

 いや、俺の全身どころか、このダンジョンそのものが――


 ―ドスンッ!


 とたてに揺れたのだ。


 そして、その揺れの驚愕きょうがくから立ち直ったところで、ヴィネは改めて言った。


「見ての通り、ダンジョンボスが撃破されたダンジョン恒例こうれい崩壊ほうかいが始まっている」

「はぁ!?」


 いや、確かにダンジョンボスが消えた迷宮は機能停止するって聞いたことはあるけどさ……そんな物理的なものだとは思わないじゃん!


「しかも、今回はちとイレギュラーが重なりすぎた。172層に現れた現れたボスしかり、それを討伐した人間かもわからない小僧こぞうしかり」

「なあその人間かもわからない小僧って俺のことだったりする?」

「当り前だろう。そもそも、肉弾戦にくだんせんで魔力のかたまりたる悪魔に人間が勝てるはずがないわ」

「魔力の塊……?」

「おっと、いかんいかん口がすべった。ルードよ、今のは聞かなかったことにしてくれ。お前にとって重要なのは、人間は基本悪魔に勝てないってことだけだ。それ以上は、知らなくていいことだ」

「お、おう。わかった」


 なにやら口を滑らしたらしいヴィネの言葉に疑問符ぎもんふを浮かべる俺だが、バラムも行っていた通り、悪魔はあくまで人間には言えないような秘密があるようだ。それを語ることでどんなデメリットがあるのかは知らないが、まあヴィネに迷惑がかかるようならば深くくのはやめておこうか。


「んで、話を戻すが、イレギュラーが重なりすぎたってどういうことなんだよ?」

「簡単な話だよ。本来であればダンジョンボスが討伐された後、地上へと続く道が開けるのだ。しかしここは172層。ダンジョンボスが居座る173層ならいざ知らず、そんな機構きこうはどこにもない。そして、お主が倒したことで、そもそも脱出装置が作動してないのだ」

「いやまじでどういうことなんだよそれ……」

「知らんしわからん。だからこそ、このまま172層とどまろうものなら、我らはダンジョン諸共もろとも生き埋めだ。スキルを持つお主なら生きているやもしれんが、せっかく命をつないだこの女はわからんな」

「お、おい! じゃあどうすればいいんだよ!」

あせるなあせるな。我とて生き埋めにされてはかなわん手前、こうして余裕をもって話しているということは、ダンジョンの崩壊を止める方法があるということだと気づけ」

「お、おうわかった」


 ヴィネにさとされて落ち着きを取り戻した俺は、ひとまず呼吸をととのえた。


「んで、何をすればいいんだよ?」

「それを説明するために、173層にりるぞ。話はそれからだ」

「そうかよ。……あ、ちょっと待ってもらっていいか?」

「少しぐらいなら余裕はあるが、その余裕も少ししかないことを理解しておけ」

「あるってことでいいんだな、んじゃすぐ済むからちょっと待っててくれ」


 そう言ってヴィネの元から離れた俺は、急ぎ足でいまだ地面に寝転がるバラムの元へと近づいた。


「……あれ、どうしたの?」

「ちょっと話したいことがあってな」


 いつの間にかあおけに戻っていた彼女のきょとんとした顔を見下ろしながら、俺はとあることをいた。


「なあ、バラム。お前ってさ、未来が見えないからヴィネと友達になったんだよな?」

「なれてるって言った方が出しいかな。結局は、私がヴィネちんのやさしさに付け込んでるだけだけど」

「そんなこと言うなよ……んで、お前は唯一の友達がいなくなることを恐れて、今回の騒動を起こしたわけだ」

「なんで今更そんなことを改めて聞くのかな、ルードちん」

「簡単な話だよ。バラム、俺とも友達になろうぜ」

「……え?」


 俺の言葉に目を丸くするバラムは、思いもよらないことを言われたような表情だ。まあ、実際にそうなんだろうけどさ。


「え、と……どうして? 私、君に結構ひどいことしたと思うんだけど――」

「あー、すまん。ヴィネが俺のこと呼んでるから、詳しく説明してる時間無さそう」

「そ、そう……」


 ここでどうやらタイムアップ。俺を呼ぶヴィネの声が、こちらへと届いたのだ。


 だから俺はぎわに、彼女の問いに簡潔かんけつに答えるのだった。


「お前の未来視をぶち壊した俺なら問題ないだろ? それに……俺は絶対に死なないからな。ダンジョンボスにも悪魔にも殺せない男を殺せる奴がどこにいる? だから、もうさびしがらなくてんだぜ」


 俺はそう答えたのだ。


「かっこつけちゃって」

「仲良くなりたい奴の前でかっこつけるぐらい許してくれよ。さびしいって気持ちも、誰かと関わりたいって気持ちも、少しぐらいはわかるかもしれないからさ」

「ふんっ。人間如きが、悪魔な私のなやみをわかってたまるかー! ばーか! さっさといっちゃえー!」

「はいはい、わかったよ」


 流石に地下千メートル以上の深さで生き埋めにはなりたくない俺は、バラムの言う通りに会話を切り上げて、急いでヴィネの元へと走っていった。


「私を落とすなんて千年早いんだよ、ばーか」


 俺の去り際に小さくつぶやかれたそんな言葉は、俺の耳には届かなかった。


 



♡―――――――――――★


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