第28話 我が花道


 『花炎姫エレガンスフラワー』コルウェット


 ソロモンバイブルズに所属しょぞくする魔法使いであり、世界でも有数ゆうすうの若手冒険者だ。しかしながら、彼女に魔法使いとして特筆とくひつすべき点は少なく、彼女を超えるレベルの魔法使いもそれなりに存在している。


 それでも彼女が一流冒険者と言われる所以ゆえんは、彼女が所持する天賦てんぷスキルからつくられる、特殊な召喚体の存在があったからだ。


 そこにるだけで周囲しゅういきずつける炎の騎士『花騎士エレガンスナイト』 魔法そのものを召喚体として扱う魔法は少なく、ましてやそれを冒険者パーティー規模きぼ使役しえきできる人間など、世界でも数えるほど。


 だからこそ、彼女は特別であり、英雄であった。


 そしてそれは――


「……生き、……てる……っ!!」


 この戦場においても変わらない。


 コルウェットは――私は、生きていた。


 おそらくは花騎士三体分の壁が上手く作用さようしたのだろう。だからと言って、あの音波攻撃を無傷で乗り切れたわけじゃない。


 面で襲い掛かって来たあの攻撃は、間違いなく私の全身に深刻しんこくなダメージを与えていて、正直立ち上がることもままならない。


 だけど、私は生きている。まだ、魔法を使うことができるんだ。


「だったら、やるしかないでしょ……!!」


 敵前逃亡てきぜんとうぼうは、私の辞書じしょに存在しない。ひたすらにまっすぐ、ひたすらに前を見て、ひたすらに努力する。


 そうすればいつか、たどり着けるはずなんだ。お母様が、そう教えてくれたから――


「花騎士!」


 消えてしまった花騎士を、一人だけ再召喚する。触れたら火傷やけどしてしまう炎をまとうその体だが、術者じゅつしゃである私には大したダメージにはならない。せいぜいが、軽いやけどになるくらいだ。


 そんな花騎士に抱えられて、私は動けない体で無理矢理動いた。


 ―AA!!?


 おそらくは私を殺したと思っていたのだろう銀色の魔物が、おどろきにもとれる声を上げたところで、私は――。


「うまくいった!」


 私は、空へと舞いあがった。

 即席でみ出した魔法の成功に、私は思わず喜びの声を上げる。


 即席そくせき魔法『花騎士:飛行モード』 土壇場で思いついた魔法だから名前をも適当てきとうなのはゆるしてほしい。


 この魔法は、ここ172層に落ちて来た時、落下から身を守るために使った『花炎放射エレガンスファイア』から思いついた技だ。


 あの時、私は落ちていく体に対して、真下に魔法を放った。すると、魔法の反動はんどうでふわりと、落下速度を落とすことができたのだ。


 『花炎放射エレガンスファイア』は、手から火を放つ広域殲滅こういきせんめつ系の魔法。もし、その火力を集約しゅうやくし、すべてを空に飛ぶために使うことができたら?

 そんな発想はっそうから今、私は空を飛んでいる。


「ここならあの音波攻撃も的をしぼれない……だから、思いっきりでかい魔法を使える!!」


 私が召喚した花騎士は一人だけ。なぜならば、すべての魔力をあの銀色の魔物のとどめに使うためのものだから――


「落ちる凶星きょうせいよ。なわしばられし両翼りょうよくよ。太陽にかれた愚者ぐしゃは、そのほむらと化し、絶望と共に空からちる――」


 ――それはあまりにも強大な魔法だ。

 上位魔法を詠唱破棄し、高位ハイクラスですら略式りゃくしきの詠唱で発動させてしまうコルウェットをしてもつむがれるその詠唱はあまりにも長く、込められる魔力はあまりにも膨大ぼうだい。その魔法は、高位ハイクラス魔法を超えた魔法――神の名をかんする神位魔法の領域りょういきへと踏み入れたものだった。


「――今、ソレは降り注ぐ『流星散花エレガンススター』」


 空からそそぐのは、地下世界にみだれる満天まんてんの星。天蓋てんがいの闇の中にかがく花畑は今、大地を蹂躙じゅうりんするために舞い落ちる。


 ―LAAAAA!!


「くっ……!」


 流石の魔物もこれはたまらないと咆哮ほうこうを上げ、空へと向けて攻撃を放った。それは先ほどの音波攻撃と同質のものなのだろうけど、私一人を狙った攻撃とは違って、空一面に広がった流星群の如き魔法に向けて放たれたものだ。


 あまりにも広すぎる狙いに、威力はそれほどのものでもなく、花騎士一人の守りでも問題なく耐え切れた。しかも、だ。


「ハ……ハハッ! 流石は私、消えてない!」


 私の放った『流星散花エレガンススター』は消されることなく、大地へと降り注いだ。


 地上の被害は甚大じんだい。特に銀色の魔物が居た周囲は見るにえないありさまだ。だけど――


「これで終わりなわけがない」


 私の短くも濃密のうみつな冒険者の経験けいけんが、不気味な不協和音ふきょうわおんかなでている。あの魔物は、まだ死んではいないと。


 だから――


「行くわよ、花騎士!」


 私の言葉に、こくりと花騎士がうなずく。その動作に意思が存在するのか私は知らない。でも、昔からこうなのだ。魔法から作り出された命のない召喚物に過ぎないのに、彼らは私の騎士として振舞ふるまってくれる。


 ならばこそ、私は彼らの主として――花と炎の姫として、この花道を突き進むだけよ。


 燃えさかる流星群の残る大地を見下ろして、丸焦まるこげとなりながらもいまだ息をする魔物に向かって、花騎士が突貫とっかんする。残った魔力を使った、飛行モードの最高速度。そんな花騎士の両手に抱えられた私は、魔物に向かって手を差し出した。


「穿ち貫け――〈花炎照射エレガンスファイア〉!!」


 本来は広範囲こういはんい殲滅せんめつを目的に編み出された『花炎放射エレガンスファイア』 その狙いをしぼり、一点集中に特化した新たなる魔法こそが、この〈花炎照射エレガンスファイア〉であり――あの魔物にとどめを刺すために残した、私の全霊ぜんれいを使った魔法である。


 まき散らされる火炎ではなく、力の限り収束されたレーザービーム。そしてそれは――


「この距離なら外さない!」


 それは、花騎士の速度によって限りなくゼロに近づけられた距離から放たれる。

 それはまさしく必殺の一撃となって、名も知らぬ銀色の魔物の頭に花を咲かせたのだった。


「……勝った?」


 沈黙する魔物。丸焦げとなった街の中心部でくずれ落ちる銀色のそれを見て、あるいは消えていく魔物の魔力を見て、私はようやく戦いの終わりを――試練の突破を予感した。


 こみあげてくる感情がうずとなって、のど奥底おくそこから感動があふれてこぼれる。


「勝った……勝った!」


 勝利の喜びは言葉となって、私は私を抱えてくれた花騎士へと振り返った。


「勝ったわ!」


 はっきり言えば、自暴自棄じぼうじき愚行ぐこうだったこの戦い。だけど、どういうわけか体の奥底よりこみあげてくる魔力のおかげで、私は魔物を倒すことができた。


 それもこれも、この最後の時まで私を守ってくれた花騎士が居てくれたからこそ。だから私は、役目を終えて消えていく花騎士を前にして、お礼を言った。


「ありがとう」


 そんな私の言葉にうやうやしく礼をした花騎士が消え去った時――


「……?」


 その扉は開いたんだ。


 終わりの扉が――




♡―――――――――――★


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