第24話 三日合わざればなんていうけど特に変わったためしがない


「……なによ」

「いや、なんでもないよ」


 コルウェットがこの172層に来てから三日が経った。相変わらずコルウェットの奴は部屋のすみの方に作った寝床に丸まってこちらを警戒しているが……まあ、上手くやれているとは思う。


 あいつからしてみれば、俺はソロモンバイブルズに所属していた時と同じ無能のまま。それに、コルウェットこそ俺を172層へと突き落とした張本人ちょうほんにんである。


 正直言って、せっづらいにもほどがある。程があるが――出来ないというわけではない。


 俺はソロモンバイブルズの奴らにうらみこそあるし、見返したいとも思っている。ただ、あいつらが真一級の冒険者パーティーになっても、みずか脱退だったいすることを選ばずに居座っていた俺の落ち度もある手前、俺もあいつらを完全に悪者と言い切ることができないのだ。


 それに――


「ねぇ、無能」

「なんだよコルウェット。あと俺のことはしっかり名前で呼んでほしいんだけど?」

「うるさいわね、ゴミ」

「悪化してる!?」


 なんともひどい扱いに頭を抱えるが、正直人と話せるだけましだと思っている自分がいる。


 何しろ、ここ二週間の間、ヴィネもバラムも不在ふざいなのだ。今現在、この平屋には俺一人しかいない。


 ヴィネは魔法特訓の人形――えっと、『体で覚えよう魔法君』だったっけ? これを用意した数日後に、置手紙を残してどこかに行ってしまったのだ。


『少し用事があるから席を外すぞ。何かあったら、家においてある魔道具を使うといい。裏の畑の世話をしてくれると助かる。あと、特訓は毎日欠かすんじゃないぞ』


 とのことだ。そんなわけで、俺は基礎訓練をしながら魔法特訓を行い、その上で家の裏手にある野菜畑の手入れをする日々を送っていた。


 んで、バラムの奴はそれよりも前に居なくなった。マジで猫みたいなやつだったよ。


 そんなわけで俺一人となった空間に二週間。正直少しさびしかったのだ。誰か話し相手が欲しい、なんて思っていたところに来たのがコルウェットなのは、いったいどんな運命が働いたのか、是非とも神様に聞いておきたいところだな。


 ともかく、そんな理由もあって俺はそこまでコルウェットのことを邪険にしていない。


「魔法の鍛錬をするなら外でやってくれよ~」

「わかってるわよ!」

「一応、安全地帯セーフルームの外に出ないように気を付けろよ。ま、コルウェットの実力なら大丈夫だと思うけどな。あ、街の中央には近づくなよ!」

「うるさいわね!!」


 さて、そんなわけでコルウェットなのだが、食事の時間以外はこうして外出していた。魔法の鍛錬と聞いているし、実際彼女は努力家だ。毎日のように魔法の鍛錬を行っており、いついかなる時でも戦えるように備えている。


 そんな彼女のスキル〈花炎姫エレガンスフラワー〉は、強力な火属性の魔法系スキルだ。放たれる魔法は敵を焼き尽くし咲き乱れる。特に、彼女の使役する『花騎士エレガンスナイト』は強力で、13層の魔物程度ならたった一騎で倒すことができるほど。


 そんな『花騎士エレガンスナイト』を、俺が知る限りなら彼女は四騎も同時に召喚できる。彼女一人で、並の冒険者パーティーを超える実力を持っているのだ。


 それに、本人は花騎士を超える火力を持つ、後衛の魔法使い。花騎士が守り、コルウェットが殲滅するという黄金コンビネーションならば、この172層であろうとそうそう後れを取らないだろう。


 ただ、中央はだめだ。


 あそこは、なんか違う。魔法の特訓(人形を蹴る殴るするのが魔法の特訓なのかは疑問が残るところだが)を初めてうすうす気づき始めたが、あそこに漂う魔力は異常だ。


 なにか――それこそ、恐ろしい怪物を封印しているような圧を感じる。


 だからこそ俺はコルウェットに警告をするのだが、いつのモノおせっかいと同じように流されてしまった。


「そこだけはちょっと心配なんだよなー」


 あいつは努力家でしっかりとした実力がある。

 ただ、だからこそ不安なんだ。一年前から変わらない焦燥しょうそうに彼女は駆られているのだから。


 本人が気づいているかは知らないけど、あの姿はまるで暴走特急のようなもの。目的に向かって突っ走るのはいいが、肝心かんじんのブレーキが壊れているように見えて不安で仕方がない。


「ま、それも仕方のない話か」


●〈スキル開示〉

・名:ルード・ヴィヒテン・S

・保有ジョブ

 〈■■■■■■〉

・保有スキル

 ―〈重傷止まり〉

 ―〈不明〉

 ―〈不明〉

 ―〈不明〉

 

 自分のスキルを見て改めて思う。


 天賦てんぷスキルは才能の証。その数と質は、文字通り天賦のものだ。

 だからこそ、天賦スキルを持つ物は期待される。持っているだけで期待が集まり、それが特別なスキルともなれば、その期待も一層強いものとなる。


 、よくよくその期待がどれほどに身勝手なものか知っている。


 だからこそ、思ってしまうんだ。


 火属性の強力な魔法系スキルを持ち、若くして多くの功績を上げ、13層に安全地帯セーフルームを築いた英雄として祭り上げられた彼女が、いったいどれほどの重荷を背負っているのだろうか、と。


「……確かに、俺は何にもしてなかったからな」


 何も持ち得ていないからこそ無能だった俺を、彼女はどんな目で見ていたのだろうか。

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