第22話 再会は必ずしも最悪なものではない


「よお。半年ぶりだな、コルウェット。元気にしてたか?」


 かつてのパーティメンバー。しかも、俺を崖下へと突き落とした張本人ちょうほんにんと遭遇した俺は、とりあえずフランクにそんな挨拶をした。


 いやマジで、なんでコルウェットがこんなところに居るんだよ。


 まあ、魔法訓練の気分転換がてらに基礎訓練を一周しようと外に出ててよかったけどさ。


 見たところ、随分と怪我をしているみたいだ。まさか、俺みたいに上から落ちて来たのか? いやいや、そんなことはないか。〈瀕死止まり〉があった俺とは違って、コルウェットは純性じゅんせいの魔法使い。肉体強化はできるし、当時の俺なんかよりもよっぽど高い身体能力を持ってはいたが、あの高さから〈瀕死止まり〉もなしに生きて落ちてくることなんてできないだろう。


 まあ、どちらにせよ魔力も体力も相当に消耗しょうもうしているみたいだ。本当に、俺が走ってきてあのゴブリンもどきを蹴り飛ばさなかったら危なかったな。


「な、なんで、あんたが……」

「あん? 生きてちゃ悪かったかよ」

「……ええ、悪いわよ! ゴミならちゃんと死んでおきなさいよ!」

「へーへー悪かったな」


 死人にでもあったようなおどろようだが、実際死人にあったようなものだから仕方がない。


 普通、13層から突き落とされて真っ逆さまとなった人間を誰が生きていると思うのだろうか。


「だ、大体さっきの攻撃は何よ! 雑魚のあんたがあんなことできるわけ――むぐぅ!?」

「文句はあとで聞いてやるから、とりあえず今はこれでも食っとけ」


 まったく、怪我人だというのに何たる元気だ。俺がここに落ちて来た時なんか、随分と絶望していたんだけどな。


 とりあえず、コルウェットのうるさい口をふさぐこともかねて、俺は折れた彼女の両足を治すために薬効団子を口にねじ込んだ。


 もごもごと抵抗する年下に無理矢理団子をくわえさているのは、何とも犯罪臭のする行為だが――違う、これはれっきとした治療なのだ。信じてくれ!


「むぷっ……いきなり何するのよ!」

「ポーション代わりの治療薬だよ。足、効いてるだろ」

「効いてるって……あれ、足の骨が……」


 よしよし、足の骨がしっかりとくっ付いたみたいだな。万が一ってこともあるし、ちゃんとくっ付いてるか確かめて、と。


「ちょっと! 何勝手に足触ってるのよ! 変態!」

「ふーむ……ここ、痛くないか?」

「痛いわけないでしょ!」

「なら大丈夫そうだな」


 ぷにぷにとしたコルウェットの足に異常がないことを確かめてから、俺はコルウェットを抱き上げた。


「何すんのよ!!」


 またもや彼女の盛大な文句が飛び出てくるが、無視だ無視。生憎とここは安全な場所じゃないし、薬効団子のおかげで両足が治ったとはいえ、体力も魔力も無さそうなコルウェットじゃ安全地帯まで移動できないだろう。


「ここは安全地帯じゃないからな。さっきの魔物は追い払ったといえ、次の魔物がいつ来るかわからないから移動するぞ」

「だからって、自分の足で歩けるわよ!」

「本当か?」

「……本当よ」

「嘘だな。返答に間があった。余裕よゆうがある奴なら即答するか、冗談じょうだんでもまじえて軽く流してる」

「相変わらずあんたはいちいちうるさいわね!」


 まったく、コルウェットも昔と調子が変わらないようでこっちも安心してるよほんと。


「……俺が居なくなってから上手くやれてたか?」

「ハッ! おんせがましい所も相変わらずね、ゴミ! あんたが居なくなってから、私は自由に羽をばせ――……ええ、そうね。上手くやってたわよ!」

「……………?」


 俺の問いかけに答えた彼女の顔に、なにやら薄暗い影が一つ落ちる。


 まあ、そうだな。俺が恩着せがましいことは確かだし、今となってはこいつとはパーティーメンバーでも何でもない赤の他人だ。


 おせっかいを焼き過ぎるのも、問題か。


「とりあえず走るから舌噛むなよ」

「え、ちょっと待ちなさい。そんな私が舌を嚙むような速度であんたが走れるわけ――」

「んじゃいくぞ~」

「速っ……ぎゃああああああ!!」


 コルウェットを抱えた俺の全速力はいつもよりずいぶんと遅かったが、魔法職のコルウェットには少し早すぎたようだ。


「か、軽い走馬灯が見えたわ……覚えておきなさいよ……」


 俺たちの根城である平屋にたどり着いてみれば、先ほどよりも疲れ果てた顔をした彼女は、そのまま意識を失ってしまうのであった。

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