第17話 スピリチュアルマジカリズム


「おいルード。さっき三つ目の寝床作ってなかったか?」

「も~し~か~し~てっ! 私たちには見えない見えちゃいけないモノとか見えてたりする? ほら、人間なのに理から外れちゃってるんだし、そう言うのが見えても不思議じゃないな~」

「その通りだよバラム。俺の知らない四人目がいつ来てもいいように寝床を整えているんだ」

「や、やめてくれルード! 我はそういうのに弱いんだよ!」


 さて、起きて早々にまずはヴィネから受けた傷を治した俺は、決心通りに四つ目の寝床を作った。


 ちなみに、この平屋に部屋は無い。視界をさえぎるのは外と中をへだてている壁だけだ。あとトイレは外にある。


「さて、寝床も作り終わったしさっそく特訓しようぜ」

「お、おおそうだな。よし、じゃあ外に出るぞ!」


 さてさて、寝床も作り終わったことだし、俺はさっそく準備が終わった特訓の催促をした。

 スピリチュアル幽霊な話が苦手らしいヴィネも、そういった話題に転がることを恐れたのか、ぐいぐいと俺の手を引っ張って外に出ようとする。


 こういうところを見ると、彼女が悪魔なんてよくわからないモノではなく、只の人間の女の子にしか見えないんだよな。獅子面のせいで顔見たことないけど。


「さて、次の特訓の内容はこれだ!」


 そんな彼女についていけば、意気揚々いきようようと次の特訓の内容が明かされる。


「その名も『体で覚えよう魔法君』だ!」

「流石はヴィネちん。凄いネーミングセンスだねぇ!」


 ババンと俺の目の前に現れたのは、杖のような足一本で立つ、三メートルもの大きさをほこる謎の人形だ。おそらくは魔物の皮を繋いで作られたであろう、このつぎはぎの異形には、ある種の威圧感があった。


 いったいこれで何をするのだろうか。いや、『体で覚えよう』なんてネーミングから、いい予感なんて微塵みじんも感じられないんだけどさ。


「まあでも、この大きさの人形を作るとなると、そりゃ時間もかかるわけだな」

「ふふんっ、そうだろうそうだろう。もっとめてくれてもいいのだぞ、えへん」

「すげーよほんと」

「月並みな感想だなー、ルードちんよ」


 見上げるほど巨大な人形に俺が感嘆かんたんの声を上げれば、ほこらしげなヴィネが無い胸を張ってえへんとふんぞり返っていた。非常に可愛らしい。


 あとバラム。月並みな感想で悪かったな、ほんと。


「さて、じゃあ使い方の説明するぞ」


 そういうヴィネは、おもむろに人形へと近づいて、ぽんと人形を叩いた――いや、見た目は軽いが、あまりにも重厚じゅうこうな音がドズンとひびくほどの一撃だ。普通じゃない。


 そんな彼女の一撃を受けた人形は、後方へと大きく後退あとずさった。


「見ての通り殴れば下がる」

「本当に見ての通りだな」

「ただ、普通に殴っただけじゃこうならない……でしょ、ヴィネちん?」

「その通りだバラム。今のは特殊な技を使って殴ったから、それに応えて人形が下がった。いや、下がるように作ったわけだ」


 そう言いながら再び人形に近づくヴィネは、今度は手ではなく足を使って人形を攻撃した。

 今度の一撃はさっきのよりもさらに強力で、バゴンとでも言い表そう、例えることの難しい音と共に大きく人形を弾き飛ばし――


「……動いてないな」


 俺ならば一発で〈重傷止まり〉を発動させそうな一撃を受けて大きくった人形だが、さっきのように後退あとずさることなく、それどころか一ミリも動くことなく、一本足に根でも生えてしまったかのように微動びどうだにしていなかった。


「これは魔力を込めた攻撃を受けたら後ろに下がる人形だ。そして、これを使うということは――」

「俺に、魔力の使い方を覚えてもらうってことか」

「そういうことだな」


 ついに来たか、魔力特訓。何時かは来るとは思っていたが……まさかこんなに早くに来るとは。


「ルード。魔力についての知識はどれぐらいある?」

「あるにはあるが、軽く触った程度だ」

「なら、最初から教えていった方が早そうだな」


 そういうと、彼女はこほんと咳払いをした。


「さて、まずはルード。魔力とは何だ?」

「魔法やスキルを使うときに消費されるエネルギーだ。人の体の中にあって、使いすぎると魔力切れを起こして動けなくなることもある」

おおむね正しいな。ただし、魔力は魔法やスキルだけに使うモノじゃない。じゃあ、バラム。魔力の運用うんようはどういう種類がある?」

「肉体強化、魔法、スキル……それに魔道具の制作と使用とか?」

「その通りだ。魔力は様々な用途ようとがあり、それらを上手く使うことができれば様々なことができるようになる。ではルード。今の『体で覚えよう魔法君』を大きく吹き飛ばした攻撃には、バラムが言った運用方法の内、どれが使われていた?」

「ああ、その名前で行くんだ……そうだな――肉体強化か?」

「ルードちんよ。さっきのはおそらく魔法も使ってるぞ」

「おいバラム。答えを言うな……まあ、ルードの答えは半分正解だな。答えは、肉体強化と魔法の両方だ。そして、その両方を上手く使えていなければ、この『体で覚えよう魔法君』は吹き飛ばせないようになっている」

「それはつまり――」

「今度の特訓は、この『体で覚えよう魔法君』を……そうだな、五メートルは弾き飛ばせるようになったら合格だ」

「なるほどなぁ……」


 魔法と魔力による肉体強化が次の課題かだいか……。


 ちょっとトラウマがあるけど――


「よっし、やってやるぞ!」


 ヴィネが俺にできると思って出してくれた課題ならば、俺はその期待に応えるだけだ。


 せめて、俺は――彼女の期待にだけは、応えたいから。

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