第9話 凱旋
ルードがダンジョンの奥深くで特訓に明け暮れる中、その頭上――遥か1500メートル上に存在する流砂の国は、近年稀にみる絶頂期を迎えていた。
右を見ても左を見ても、人、人、人。流砂の国の王都は、空前絶後の人間の
そんな流砂の国の王都の大広場で、両手に大量の花束を抱えた女が、待ち合わせていた男に会っていた。
「花塗れ。いったい今日は何通のラブレターを貰ったんだい、コルウェット」
「驚きなさい、42通よ。ちなみにリピーターは25人。半分以上は新たに訪れたイケメンからの招待状」
「それはそれは、随分と華々しい記録だね。確か一日の最多ラブレターは……」
「一か月前に100通貰ったのが最大ね。ま、あれは変な噂のせいもあって、馬鹿な連中がたくさん寄こしてきたってのが理由だからうれしくはないのだけれどね」
何気ない二人の会話は、
ただし、その容姿は溶け込むことはできなかったようで、次第に二人へと視線が集まる。
「ねぇ、あれ」
どこかからそんな声が聞こえた。
「あれってさ、ソロモンバイブルズのゲルアーニとコルウェットじゃない!?」
「え、あの『
どうやら、二人のファンが人ごみの中にいたようだ。そして、二人のファンは彼女らだけではなかったらしく――
「まじかよ! さ、サイン欲しんだけど……!!」
「一回でもいいから生でコルウェット様を見ておきたかったんだ! どこだ! どこにいる!?」
「まさかこんなところにあのソロモンバイブルズのメンバーがいるなんて……! 夢みたい……!」
街の活気以上の熱気と喧騒が、二人――ソロモンバイブルズが誇る美男子と美少女である、ゲルアーニとコルウェットの登場によって訪れた。
それもそのはず、この街に多くの人を
誰にも成し遂げられなかった
そんな彼らによって引き起こされた向こう三丁目まで届く歓声を見て、コルウェットは――
「役立たず共がうるさいわね……」
誰にも聞こえない声でそう言った。
「こら、コルウェット」
「ああ、ごめんごめん。でもさ、13層にも行けないような雑魚を同じ人間として見れないのよ、私。ほら、ゲルもわかるでしょ? キーキーやかましくてしょうがないわ」
「まったく君は……いや、いいよ。そういうところは相変わらずで、ある意味褒めた方がいい所なんだろうけどさ。まあ、三つ子の魂百までとは言わずに、しっかりと直してほしいところだけど」
「どうして私たちが周りのことを気にしなければならないのかしら? この程度の群衆、私の上位魔法の人吹きで皆死んでしまうような雑魚なのよ? ダンジョンに潜ったところで何もできない……いや、余計な荷物を増やすことしかできない奴らなんて、存在価値もな虫けらじゃない」
「……そうだね。まあ、とにかく移動しようか。お互い忙しい身だし、召集のこともある」
「そうね。さ、早くいきましょ」
二人の会話が、
群衆をかき分けて歩く
「今更後悔するべきじゃない、か」
あれから――13層からダンジョンの奥底へと彼の“元先輩”が落ちて行ってから半年前となってしまった今日。半年ぶりに、彼らは13層へと
「ねぇ、コルウェット。コルウェットはさ、ここのダンジョンってどれくらい深いと思う?」
「さあ? 13層からやっと全体像が見えて来たから今まで考えたこともなかったけど、あの調子なら50層も下れば最深部じゃないかしら」
「50層か……」
今日から、彼らの低国ヴィネのダンジョン13層を目指す冒険は始まる。そして、13層より下――
これから始まる苦難の道のりを思い浮かべて、ゲルは――
「死体でもいいから、もう一度
隣を歩くコルウェットにも聞こえない声で、そう笑うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます