出勤中に魔王を見つけたので助けたいと思います。
カツラノエース
本編
代わり映えないいつも通りの朝。
鳥の鳴き声に川のせせらぎ...が特に聞こえる訳でもなく俺はいつも通り仕事に行く為に駅に向かって歩いていた。
「あっちぃな...」
全く夏というものはサラリーマンの事を考えていないな。俺はそう思いながら顔から垂れる汗を手で拭った。
そんな調子で駅に向かって下町を歩いていると――
「なんだ...?」
家と家の隙間に1人の男が倒れているのを見つけた。
漫画でよく見るような豪華な服に紫色のマント。
あまり関わりたくはないタイプだな、だが倒れている人間を無視するのも
だから俺は親切心で声を掛けた。
「あのー、大丈夫ですか〜?」
すると男は立ち上がり、
「ここは...どこだ...?」
俺の方を見ながらそう聞いてきた。
「どこだって言われても...」
アンタ自分が何でそこにいるのか覚えてないのかよ!
そう頭の中でツッコんでいると、
「勇者は...勇者は何処にいる!?」
急に声を荒らげたかと思えば、そんなへんちきりんな事を言い出したんだぜ?あ〜あ、これやっぱり話しかけない方が良かったやつだわ。
「勇者?何言ってるんですか...?」
俺はそう聞くと男は話し出した。
何を言ってるのかよく分からなかったが話をまとめると
この男は魔王(自称)で勇者と戦っており、やられかけた時に何とかこの世界にワープして来たのだと言う。
これをいきなり真剣な顔で言われたんだぜ?この自称魔王男マジでヤバい奴だろ。
「とまぁ、そんな感じだ、よし、腹が減った飯を出せ」
まじかよこいつ、常識を知らない魔王みたいだな。
「あの、お金...持ってるんですか?」
「金?何だそれ?」
「仕事は何してるんですか?」
「俺は魔王だぞ?仕事なんてするか」
待て待て、コイツマジで魔王なのか!?
まぁだが、俺は一度始まった出来事は終わるまで見届けないと心にモヤモヤが残るタイプなもんでな、俺は魔王の仕事探しに付き合う事にした。あれ?俺なんか忘れてないか?
「とにかく、この世界では仕事をしないとお金が貰えないから生きて行けないんです。だから仕事探しましょ?俺も付き合いますから。」
「うむ...仕方ない、その仕事探しとやらに付き合ってやろう...」
お前の為にやってやるんだぞ!?何なんだよこの上から目線!?
「はぁ、とりあえず市民センター行きましょ、あそこなら何かしら仕事を提供してくれるはずです。」
こうして魔王の仕事探しが始まった。
市民センターを目指しながら魔王と歩いていると、急に魔王が口を開いた。
「この世界は暑いな。おいお前!何か水分をよこせ」
俺はお前の手下でも無ければ
「はぁ、近くに公園がありますからそこの自販機で何か飲み物を買いますか。」
俺も喉が渇いていた事もあり魔王の超絶上から目線を何とか我慢し、飲み物を1つ奢ってやる事にした。
ガコン、そう音を鳴らし自販機から飲み物が出てくる。
「はい、どうぞ」
俺は冷たいお茶を2つ買い、そのうち1つを魔王に手渡した。
全く、俺は親切な大人だぜ。感謝しろよな?
「ふむ、よろしい。」
マジでむかつく魔王だなこいつは。
「はぁ...」
俺は大きくため息をつき、お茶をがぶ飲みする。
冷たいお茶が喉をスルスルと滑り落ちていく感覚はなんとも気持ちいい感覚だった。
「ぷはぁ」
冷たいお茶を一瞬にして飲み干すと、一度大きく息を吐き、ふと遊具の方に目をやると、そこには嫌な光景があった。
子供が大人に怒鳴られている。
「おい、どうしてくれんだよ、カバンが傷付いたじゃねえか」
「ごめんなさい...でも、わざとじゃないんです...」
「はぁ!?わざとじゃない?そんなの関係ねぇんだよ」
おそらく子供が誤ってあの男にぶつかってしまったんだろう。
たったそれだけでこんなに怒る必要なんてねえのにな。
俺はああいう大人が大嫌いなんだ、だから俺はその場に近ずき、
「おい、お前。さっきから見てたがそんなに怒る必要なんてねぇだろ。ここは許してやろうぜ?な?」
俺はできるだけ男を刺激しない様にそう言った。だが、この言い方はあまり良くなかったらしい。
「あ?お前には関係ねぇだろうが!」
男は俺に思いっきりそう怒鳴った。
くそぅ、やっちまったよ...ここからどう話を持って行けば良いんだよこれ...
俺はそう心の中で思いながらも言い返す。
「関係無くないですよ、大体大人がちょっとした事で子供にキレるのはおかし」
そこまで言った所で魔王が2人の間に入って来た。
何する気だよ魔王さんよぉ?という様な顔で魔王を見る。
だが魔王は真剣な顔で、
「任せておけ」
なんて言うもんだからここは任せる事にした。
「あ?何だてめぇ?またややこしい割り込み野郎か?」
男はいきなり割り込んで来た魔王にキレた口調でそう言う。
だが、魔王は顔色変えずに男の方を向き、右手を男の方に伸ばした。そして、
「
男に
魔王が
「...あれ?俺は何してたんだ...?って仕事行かないと!」
そう言いどこかに行ってしまった。
「これが我の力の1つ。
すげぇなコイツ、マジで魔王なんだわ。
俺は目の前でファンタジーな光景を見た俺はすんなりコイツが魔王と言う事を受け入れてしまった。
とりあえず一件落着か〜ってそうじゃねぇ。俺は今魔王の仕事を探しに市民センターに向かってたんだ。だから俺は、
「とりあえず市民センター行きましょ。」
魔王にそう言う。だが、その心配は要らなかった様だ。
「その必要は無い...我は子供を喜ばせる仕事をするぞ」
そう言う魔王の足元を見るとそこにはさっき大人に詰められていた子供が足にしがみついて、
「マントのおじさん、ありがとう!」
そう笑顔で言っていた。なるほどな、コイツはこの世界に来るまでは魔王だった訳だ。だから子供に感謝される事なんて無かったんだろう。だから、嬉しかったんだな。
これで魔王もこの世界で仕事を見つける事が出来た訳だ。よりにもよってその仕事が子供を喜ばせる仕事、だなんてな。
この魔王、案外良い奴なんだな。
そんな事を考えながら魔王を見ていると、俺は思い出してしまった。今出勤中だったと言う事を。
「やっべぇ!」
俺は焦り散らかしながら公園の地面を強く蹴り、駅へと走った。
あの出来事から少し経ったある日。今日もいつもと変わらずバカみたいに暑い道を歩いていた、当然、出勤する為だ。
ちなみに魔王と出会った日、あの後どうなったのかは、言わなくても分かるとは思うが...当然電車に乗り遅れ、大遅刻をかましてしまった。
「はぁ」
あの日の事を思い出し、俺は大きくため息をついた。
そんな調子で歩いていると、例の公園が見えてくる。
そこには魔王がいて、その周りをたくさんの子供が囲んでいる。魔王はあれから市民センターに行ったり、子供の為になる仕事を探したりと、色々して、今はボランティアで子供達に紙芝居をしているらしい。
「マントのおじさん早く読んで!」
「今日はどんな話なの〜!」
子供達がガヤガヤと魔王にそう言う。
「よし...今日は、我を助けた仕事忘れ人間の話しだ...」
マジでアイツぶっ飛ばして良いか!?
「ったく...」
だが意外と怒りは直ぐに収まった。
異世界から来た魔王が1人でボランティアをしてるなんて、立派だと思うぜ?
そんな光景を見た俺は、
「俺も頑張らねぇとな」
そう柄でもねぇ事を呟き、いつもより少し、駅へと向かう足を早めたのだった――
出勤中に魔王を見つけたので助けたいと思います。 カツラノエース @katuranoACE
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