【第六話】━━ 迷子になる。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ええ、それはもう、もちろん迷子になるわよ。天使ちゃんともはぐれたよ。

 だってこのお城無駄に広いし。

 それでも邪神の時の私よりは小さいのよね。どれだけ大きかったんだよ。魅惑の邪神ボディ。

 それは置いておいて、このお城、建材自体が淡く輝いていて、光源いらず。

 ただ寝るときに明かりがついてると寝れない人は辛いかもね。

 私は平気よ。いついかなる環境でも寝れる自信はあるよ。

 まあ、今はそんなことは置いておいて天使ちゃんと合流しないと。

 そう思いスタスタととめどもなく歩くんだけど、余計迷うのよね。

 もう自分の部屋に戻れる気がしないわ。

 そうこうしている間に、なんか偉そうな天使を一人見つける。部下らしき天使を連れて偉そうにしている。

 きっと偉い天使、上司天使ね。

「ねえ、そこの偉そうな天使さん。私の天使ちゃん知らない?」

 偉そうな天使に気さくに声をかける。

 礼儀作法なんて私に求められても困るし。

「おまえは…… 元邪神の娘か。こんなところで何をしている」

 偉そうな天使も美形だ。というか天使はみんな美形で雌雄同体だ。

 なんか、こう私の拗らせた性癖に来るものがある。

 実際に目の前の偉そうな天使も天使ちゃん程ではないけど、私のタイプだったりする。

 見つめられるとドキドキしちゃったりする。

「天使ちゃんとはぐれちゃってさ」

 と、目線をずらし少し照れながら返事をする。目線を合わせていると顔が赤くなるのが自分でもわかってしまう。

「アルシエルの奴め、何をやってるんだ」

「天使ちゃんアルシエルって言うのね。でも天使ちゃんは天使ちゃんですよ」

 そこを譲る気はない。

 天使ちゃんは天使ちゃんだ。

「しかし、邪神が降伏するなど…… 今でも信じられん」

「あー、違う違う。元の邪神は私がいた世界でギャルやってるはずですよ。私はその代わりに? この世界に送られて邪神の体に入れられただけで」

「なるほど。そういう事か。やはり封印したほうが良いのではないか? この娘も」

 偉そうな天使はそう言って私をじっと見つめる。

 や、やめろぉ、そんな美形な顔面で私をじっと見つめるな。照れて死んでしまう。

 しかし、私を封印したいのか? でも封印って名ばかりで処刑方法みたいな話だったよね? それは嫌だな。

「えっ、えっと 私は神様と交渉をして、この体になって衣食住を保証してもらってるのよ? その命に背く気?」

「背く気はない。だが、泰平のためならば罪を犯し、贖う覚悟はできている。我も共に封印され無へとかえろう」

 偉そうな天使はそう言って私にグイっと近づいてきて、私の手を取った。

 や、やめろ、手に触るな。ほ、ほれちゃうだろ!!

 迷う、恋の狭間の迷子になる。迷子になってしまう。

「え、いや、そんな自己犠牲やめてくれる? そもそも私は平和に暮らしたいだけで、邪神の力だって捨てたいのよ」

 何とか平静を装ってそう言ってみるが効果はなさそうだ。

「だが、捨てられずにいるのであろう? 感じるぞ。貴様の体からあふれ出る邪悪な邪神の力がな」

 そう言って更に偉そうな天使…… 偉そうな天使様は私にぐいっと顔を近づけて来る。

 あー、やべぇ、まつげ長い、肌超綺麗…… 何ならいい匂いまでするわ……

「け、けど、制御する術を神様から教えてもらって習得したわ!」

「やはり力は捨てれていないのだな?」

 偉そうな天使様は私の手を握る力をさらに強めてきて、ああ、なにこれ、私、こんなイケメン天使にこんなに攻められちゃって、どうなっちゃうのよ。

 ああ、いけませんいけません……

「そうよ? そっちこそ…… 分かってないみたいだけど。私、邪神の力をまだ持っているのよ? 力ずくでどうこうできると思わない事ね!」

 って、私も何ツンデレみたいなこと返してるのよ。私ちょろすぎる……

 まあ、地球にいたころはもてなかったしな。こんなに攻められても免疫があるわけない。

「それはその通り。ならばお願いしよう。我と共に封印されてくれぬか!?」

 や、やめろー、つい、顔を赤らめて「はい……」と、返事しちゃうところだったぞ。

 共に封印されちゃってどうにかなっちゃうところだったぞ。

 やばい、やばい。

「あっ、いや、美形な天使にそんなこと言われると心動いちゃうそうで怖いんだけど!?」

 って、なに心の中の言葉を口にしてるんだ、私!!

「いた! やっと見つけれた! ユー何やってるんですか!!」

 ああ、天使ちゃん、私の天使ちゃん!!

「いやー、偉そうな天使様に口説かれたところ?」

 顔を赤らめてそんなこと言うと、天使ちゃんは驚いた顔をした。

 あら、嫉妬かしらね?

 いや、天使ちゃんとも恋愛をするような関係はまったくなかったけども。

「口説いてはいない。一緒に封印されてくれないかと願い出てたところだ」

「一緒に封印って…… 何言ってるんですか、天使長!」

 そうだそうだ。何言ってるんだ、この天使長様!!

「いや、しかしだな。お前も感じるだろう。この娘からあふれ出る邪神の力を」

「それはそうですが、この娘にはまだ役割があると主が申されていましたので、勝手に封印したらまずいですよ」

「え? 役割ってなに? 私聞いてないんだけど!」

 私に役割がある? なにそれ聞いてないんだけど? 私に何をやらせる気よ?

「主のことだ、きっとその場で思いついたろくでもないことだ。それよりはこの場ですぐに我もろとも封印してしまった方が世のためだ」

「この天使長様、神様をろくでもないって言ってるけどいいの? 天使ちゃん」

 思い付き? あの神様は思い付きで行動すんの?

 あー、それが本当なら確かにろくな神様じゃなさそうだな。

「いえ、まあ、その…… いつものことなので…… 私からはなんとも……」

 そう言って天使ちゃんは目線をそらした。

「いつものことなの? 意外と…… その、なんて言うか緩いのね」

 主とか言ってる割には、緩いというかなんというか。

「さあ、我と共に封印されるのだ!」

「ねえ、天使ちゃん、これ、もててるってことでいいのかしら?」

「違うと思うけど……」

 微妙な表情を浮かべて天使ちゃんはそう言った。




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