【第五話】━━ 結局は慣れだ。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「わ、悪気があったわけじゃないの? まさか邪神の力が失われてないなんて思いもしなくて!」
吹き飛ばされ戻って来た天使ちゃんに必死に言い訳を伝える。
「その人間の体でも邪神と同じ力が使えるのか?」
ただ天使ちゃんは私に敵対するつもりがなかったことはわかってくれているようで、こうなったことに対して驚いているだけみたい。
「悪気はない。悪気はないのよ? ね?」
ただそれでも心配なのでその意志を伝える。
「わ、わかったから落ち着け。まずは下手に動くな」
「は、はい、動かないから、私、動かないから!」
確かにそれはそうだ。下手に動いて自体を悪化させることだけは避けなければならない。
「何があった!? これは……」
半壊した扉を丁寧に開けて、神様がやってきてこの惨状を眼の辺りにする。
神様は後光が強くまぶしくてその表情を見ることはやっぱりできない。
「悪気はないんです、その場で一回転したら、そのまま竜巻にが起きて!!」
私のやることは敵意がないのを伝えることと、直立不動のまま動かないことだ。
「なるほどそういう事か」
なんか神様、すべてを悟ったかのうな言い草。まあ、神様だしね。悟ってるんでしょう、そりゃ。
「主よ、これはどういったことなのですか。この者はもう邪神の力は失われたはずではないのですか?」
飛んでいた天使ちゃんが降りてきて、神様の前に跪いてそんなことを聞いている。私は直立不動。
「肉体の大きさに応じて力は失われるはずじゃった。だが、元の力が無限であれば、いくら細かくいたところで無限は無限。際限がなかったわけじゃ」
そう言って、神様は他人事のように、その表情は見えないけど、恐らくは笑っている。
いや、いやいや、笑い事ではないでしょう?
「え? なにそれ、私ただ小さくなっただけで、このアホみたいな邪神の力を持っているってこと?」
直立不動のまま動かずに聞く。だって動くの怖いし。
「これはワシにも予想外じゃ。邪神の奴め、まさか無限の力を手にしていたとはな」
「いや、笑い事じゃないですよ、どうするんですか? こんなのまともに生活していけませんよ?」
と、私が聞き返すと、
「まずは力の制御方法を学ばなければいかんようだな」
逆光でわかりにくいけど神様は笑ってそう言った。
「力の…… 制御方法? それはどうやって!?」
「慣れじゃ」
「は? 何言ってんの? 慣れ? 慣れでこれがどうにかなるもんなの!?」
なった。
一週間、どうにかこうにか神様の修行に耐え、暮らしていくうちに力の制御方法というのを身に着けることができた。
結局は慣れだ。人間、意外と大抵のことにはなれるもんだ。
その間、天使ちゃんには色々と迷惑をかけてしまった。
一応ね、神様との約束で、衣食住を確約してもらったわけだか、神の名のもとに私の衣食住は確保されないといけないらいしくて、私が力の制御に失敗すると天使ちゃんがそれの尻拭いをしてくれるって感じ?
まあ、なんて言うか、この一週間ドンドンやつれていく天使ちゃんには悪いことしたと思うよ。いや、ほんと、悪気はないんだ。苦労は掛けたけど。
「ユウ、今日の衣だ。ここに置いておくぞ。あと今日の夕飯から皆と食堂で一緒にとって良いという許可もでた。それとな、住居の補修はやるが掃除は自分でしろ? いいな?」
そう言ってくる天使ちゃんに心の中で、お前は私のおかんか! と突っ込みを入れておくけど、そんな感じよね。
まあ、力の制御ができるようになるまで思うように動けなかったしね。世話をしてもらわないとならなかったし。
でも、私にも母親がいたらこんな感じだったのかしらね?
「えー、掃除もやってよぉ、あと私はユウではなくユーね。五十嵐ユーが私のフルネームだよ」
私の名前はユーなのだ。カタカナでユー。ちょっと変わった名前よね。だから邪神に名前を言い当てられたときに驚いたんだけどね。
「一週間たってやっとフルネームを名乗ったな、では私も名乗ろう、アル……」
「天使ちゃんは天使ちゃんでいいよ」
と、天使ちゃんが名乗ろうとするのを遮る。だって天使ちゃんは天使ちゃんだし。
「なっ!」
と、天使ちゃんは驚愕しているけど気にしない。
「とりあえず食堂行っていいと言うことは、もうこの部屋からも出ていいってことよね?」
この一週間この部屋にひきこもり生活だった。いやー、ほんとに暇だった。だって暇つぶしの道具、何もないんだもの。
スマホでもあれば暇つぶしできたのに。あー、でも電波も届かないか。異世界だし。
「ああ、大丈夫だ。主から力の制御ができるようになったとお聞きしたからな」
いやー、神様との力を制御するための修行、大変だった。何が大変だったかとか具体的なことは聞かないでよ。とにかく大変だったのよ。
「じゃあ、案内してよ、天使ちゃん」
とりあえず、この光り輝くお城の内部を探検してみたい!
「私の名は……」
と、まだ天使ちゃんが名乗ろうとするので、それを阻止する。断固阻止する。
「天使ちゃんは天使ちゃんよ。それでいいじゃない。さあ、案内してよ」
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