第5話 操りの糸

『お母さんは勉強しなさいって言うけど、これが正しいのかな……何で、遊んじゃだめなんだろう。何で友達と一緒にいたらダメなんだろう。何で……?』


「リーナ……?」


幻のリーナの目から涙が溢れる。


『私だって、みんなと遊びたいよ。勉強ばっかりなんて嫌だよ。それなのにお母さんは私のことなんて見てくれない。私のこと何も考えてくれない。お母さんなんか……こんな思いをするなら……消え、たい……』


魔法陣が消えて、リーナも消えた。

ということは、このあとすぐリーナが消える何らかの魔法の出来事があった。



……これが、消えた理由。



「あなた、リーナさんに何を……」


カナが震えながら聞く。


「あの子の夢を叶えるために良い環境をつくろうって思ったの。だから遊ぶことも禁止したし、友達も勉強できる友達だけ接しなさいと言った。良い環境のはずだった。それなのに、リーナは何で……?」



「……そんな理由なら消えてもおかしくないでしょう」



「えっ……?」


「夢を叶えるために良い環境を作る。それは良いことでしょう。しかし、あなたはやり方を間違えた。親であるあなたが子供の自由を奪ってどうするんですか」


「自由……」


「医者になりたいという夢を叶えるために勉強は必要です。けど、リーナさんはまだ12歳。子供です。子供なら遊ぶ時間も友達も必要ですよ」


「で、でも、遊んでばかりだったら夢は叶えられないじゃない……!」


「それを教えるのが親の役割でしょう。時間の使い方を。この世界は勉強が全てじゃないんです。ずっと勉強ばかりしたらストレスも溜まる。そりゃ辛くなります。子供の自由を奪って、苦しめてあなた、親というよりいわゆるですよ。……親失格です」


「親、失格……」


この人は、リーナのことをどう思っていたんだろう。

本当に自分の子供だと思っていたのか?

まるで、本当に子供だと思っていないような扱いに見えた。


「私は、過去に失敗して夢を叶えられなかった。リーナに、同じ目にあって欲しくないって思ったのに……!!」


……そう、か。


そうだとしても間違っている。

やり方が違う。

逆効果なんだ。


「だから正しいって思ってた。あの子は良い子で私の言うこと素直に聞いてくれるし、真面目で頑張ってるから……」


「まるで、操り人形ですね……」


カナがぼそりとつぶやく。


……操り人形、か。

まさにそうだな。

遊ぶことまで禁止されて、自由も奪われて。


「お願い……お願いです!!リーナを……リーナをここに戻してください……!」


ただただ泣き崩れる。

その様子なら、信用しても大丈夫かな。


「行方不明者は全員必ず、僕らが戻します。けど、リーナさんがここに戻ってくるかどうかはあなた次第でもありますよ」


「……私……?」


「はい。もしリーナさんがここに戻って来たら操りの糸を切って、自由にしてください。ご協力ありがとうございました。行くぞ、カナ」


「え、もう?」


「次の家行く」


まだまだ確定じゃないけど、次の家も同じことが起きるならこの事件にはが関わっている可能性が高い。

そうなると、かなり厄介だ。

……全員、無事だと良いのだけど。



「ここも同じだったね」


これで4件目。

魔ノ跡を調べても魔法の痕跡は見つからなかった。

魔ノ記憶ではリーナ含め全員最後に「消えたい」と言っていた。


間違い、ない。

先輩たちが言っていた通り、俺らが想像しているものより残酷で、厄介な事件が起きている。


「上に報告したほうが良さそうだな」


「そう、だね。これだけ被害者も多いんだから」


「そうじゃない」


「えっ?」


「どの部屋の記憶には行方不明者が消えた瞬間が残っていなかった。部屋の記憶の魔法は使は映らないし、行方不明者が消えたのは何かしらの魔法は使ったのは確定してる。でも、その使った魔法の痕跡すら残っていなかった。これが普通の誘拐なら、痕跡がないことはない。けど、ならあり得る。しか全部これらが成り立つんだ」


「その、って……」



「黒魔術師、だ」

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