第4話 手がかり集め

ザッと資料に目を通す。

行方不明者の名称、生年月日、経歴等の表、それから居住している場所の地図。


場所はみんなバラバラ、特に偏っているわけではない。

結んでも意味はないし、同じ距離の場所は作れない。


行方不明者の経歴も共通はない。

何らかの賞は取ってる人もいれば、何も取っていない人もいる。


……仕方ない。

一から全部見てみるしかない。


「おい、カナ」


「何?」


「行くぞ」


「行くってどこに」


「ここ」


指で地図を指す。

カナは無言でそこを見て、うなずく。



交番から1番近い行方不明者の家。

今は12歳で、魔法コンクールで何度も賞を取っている少女らしい。

名前はリーナ。


表を見ても地図を見てもわからないなら行方不明者の家に行くしかない。

少しでも手掛かりがあれば良いんだ。


インターホンを押す。


『はい』


女性の声。

おそらくリーナの母親だろう。


「魔法警察です。突然ですがいくつかお聞きしたいことがあります」


『ちょっと待っててくださいね』


プツッと切れた。

少しして玄関の戸が開いた。


ウェーブのかかった黒髪の女性。

表情はなぜかやわらかい。

至って普通に見えるけど、瞳が何だか暗い。


「リーナのことでしょう。どうぞ中にお入りください」


無理をして笑っているのだろうか。

目が笑っていない。


カナを目を合わせて中に入ることにした。



「リーナは本当に良い子だったの。それなのに何で……」


リーナの母親は飾っている写真を見て言う。

表では行方不明になったのは先週。

事件が起きている期間の中でも特に行方不明者が集中している。


彼女の話によると、リーナは優秀な少女だったそう。


「行方不明になった当日のこと、詳しく聞かせてください」


カナが落ち着いた声で言う。


「……学校からテスト100点だったよって言って、嬉しそうに帰って来たのよ。自分のことのように誇らしかった。次も期待してるよって言ったらリーナは部屋に戻っていつも通り勉強していたわ。それで、晩御飯ができたからリーナの部屋に行ったらいなくなってて……」


「……部屋からは出ていないのですか?」


「そうよ。学校から帰って来たらすぐに宿題と勉強をしなさいって言っているから出ていないはずよ」


ってことは、部屋で何かが起きた、のか。


「リーナさんの部屋、見ても良いですか?」


「え、ええ。どうぞ、こちらです」


階段を上って2階へ。

何も散らかっていない、すっきりした部屋。

壁や棚にはたくさんの表彰状やトルフィーが飾ってある。

ベッドに人形が置かれている。


特には何もなさそう。

……の可能性があるかもしれない。

いやそれだと決定的ではない。

やってるみる価値、はあるか。


「少し離れてください」


部屋の真ん中に立ち、絨毯に手を置く。

この魔法、使うのはいつぶりだろうか。

訓練以来かもしれない。



マギアヴェスティジアム



手から光が出て、絨毯に魔法陣が現れる。

……頼む、何か出てくれ。

出てくれたらすぐに、わかるんだ。


光がおさまり、魔法陣が消える。

部屋を見渡しても何も変わったところはなかった。


「い、今の魔法、は……?」


「魔法の痕跡を探す魔法です。基本的に、警察が使う魔法です」


戸惑うリーナの母親にカナが説明をした。

この魔法の取得にかなり時間がかかった。

この魔法があれば行き詰まった事件の解決につながる。

……けど、今回は出てこなかった。


「何も出てこない」


「えっ……」


「ここで何かが起きたのは確かなんだ。その痕跡がないなんて……」


ふと、部屋の本棚が視界に入った。

どれも魔法の本だ。

今思えば部屋におもちゃがあまりない。

女の子なら大抵は持っているぬいぐるみも、小説も、何かが足りない。


「リーナさんは、真面目なんですね」


カナが表彰状を見ながら言った。


「そうでしょう。あの子、医者になりたいって小さい頃から頑張っているのよ。そのために、勉強をずっとやっているの。本当に誇りよ」


……誇り、か。

俺もリリが誇りだった。


けど、何で消えたんだ……?

リーナとリリの共通は「優秀」。

だめだ、ますますわからなくなる。


「お願いです。どうか、リーナを見つけてください。あの子のためにも……あの子の夢のためにも……!」


リーナの母親は崩れてしまった。

希望を失ったような、頼りない様子。


消えた理由があるはずなんだ。

そのためには……リーナのことを知る必要が出てくる。

証言じゃわからない、リーナのことを知る方法。


……これ、なら……!



此処ヒーク記憶メモリア



今度は天井に手をかざす。

魔法陣が出て、光が部屋を覆い尽くす。


俺の横にリーナらしき少女がいた。


「リ、リーナ……?」


リーナの母親が不思議そうに幻のリーナを見る。


……少し前、リーナが消える前の映像。

この魔法でこの部屋で起きた魔法以外の出来事を見ることができる。


リーナの表情はなぜか暗い。

瞳がぼんやりしている。



『……私って、本当は何をしたいんだろう』

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