第3話 頼れる先輩

「リョウター」



ガラガラっと仕事場の戸が開いた。

資料から目を離して、そっちの方を見ると、爽やかな笑みを浮かべた男性と真顔の男性、というか青年が立っていた。


「あ、ソラ先輩、とヨウ先輩」


「みゅ?」


カナがもふもふ野郎を抱いて席から立つ。


この人はソラ先輩。

2つ年上の先輩で、20歳。

超エリートで、上司から気に入られている。


もう1人はヨウ先輩。

ソラ先輩と同級生で、こちらも超エリート。

ただいつも真顔かつ無愛想、口悪いから少し苦手だ。


2人とも、学生時代からお世話になっていて、特にソラ先輩とは仲が良い。



「お疲れ、カナ、リョウタ。みゅんみゅんも久しぶりだね」


「みゅん!」


先輩はもふもふ野郎を軽く撫で、俺の方を見た。


「リョウタ。例の資料やっと手に入れたよ」


れ、例の、資料。


「……ほ、ほんとですか?」


「そうだよ。ほら」


数枚の紙が渡された。

題名を見て、一気に鼓動が速くなった。


「あ、ありがとうございます!」


良かった。

これで、手がかりを掴める。


「俺の先輩が交渉して、コピーをくれたんだ。……何とかなりそう?」


「はい。いけると思います」


「なら良かった。じゃあ、ここで戻るよ」


「え、もう行くんですか?」


ソラ先輩は爽やかな笑みから真剣な表情になった。


「うん。君たちも関わってるあの事件。僕たちの予想以上に、残酷な事件かも知らなくてね」



「……えっ?」



心臓が強く、ドクン、と跳ねた。


「まだはっきりとしてはないけど……リョウタ、被害者数は何人だってわかってる?」


空気がどんどん冷たくなる。


「この街では30人です、けど……」


「そうだよね。でも、他の街の被害者をプラスすると最低でも100、多くても300人はいることがわかったんだ」



「さ、300……!?」


どう、して。

どうして、そんな数……


「みゅん……」


もふもふ野郎が沈んだ声で鳴く。


「一刻でも早く、被害者がいる場所を見つけないと。だからリョウタ。その資料を参考に特定して欲しい。これは上司からの命令だよ。あの人が君の唯一の実力を理解して頼んでるわけだから」


俺の、実力。

それを、あの人が1番わかってくれてる。


「もちろんです」


「……それと、みゅんみゅん」


ソラ先輩がもふもふ野郎を見る。


「みゅん?」


「君のパートナーは僕たちで見つけるから。だから安心して待ってて」


「みゅん……」


そうだった。


こいつはリリのパートナーだった。

リリは体が弱いから、魔法を少し使うだけでもしんどかった。

少しでも魔法を長く使えるように、こいつがサポートしていたんだ。


小さい時からずっと一緒にいたから、リリの失踪はだいぶショックだったそう。


「それじゃあ、捜査に戻るよ」


「はい、ありがとうございました」


ソラ先輩は戸を開け、外に出た。

すると、なぜかヨウ先輩が振り向き、こちらを見た。


「無理はするなよ、リョウタ」


と言って、外に出た。

ガラガラっと少し乱暴に戸が閉まった。


「え、あ、はい」


意外、だ。

あの人絶対何も喋らないのに。

相変わらずの真顔だったけど。


……さて。

あの資料を使って、特定しないと。

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