それぞれの道(一)

「生き抜いたぞ~~~~っ!!」


 アオイが大声で空に向かって叫んだ後、地面に大の字で寝転んだ。


「おいアオイ、脚は閉じろ……」


 トモハルの注意に耳を貸さずにアオイは、先にってしまった同僚達へ笑顔で報告をした。


「モリヤ、隊のみんな、それに先輩達、私やりましたからね! みんなが繋いでくれた命を守り抜きましたよ!! 最強の管理人を倒したよーー!!」

「繋いでくれた命……。確かにそうだな。マホ、見てるかぁ!? 桜里オウリは俺が守るから安心しろ!!」


 マサオミ様もアオイにならって叫び、ドカッと地面に胡坐あぐらをかいた。そして痛がった。脚を負傷していたことを忘れていたらしい。

 シキが続いた。


「ソウシ、会いに行くのが遅くなりそうだが、現世で真面目に頑張ってる結果だからな!? ちぃっとばかし待っててくれや!!」

「え……これは全員が空に向かって叫ぶ流れか? 関係なく座りたいんだが。もう身体が限界だ」


 オロオロするトモハルにマサオミ様が噴き出した。


「座れ座れ! おまえはこんな時でも真面目だな」


 ホッとしてトモハルは脚を伸ばす姿勢で大地へ座った。俺も父さんを支えながら一緒に座った。尻尾を振ってヨモギが近付いて来て、俺の膝を枕に寝転んだ。その頭を撫でてやった。


 みんな笑っていた。ボロボロの身体で笑っていた。


「流石に疲れたな」


 カガミから降りたイサハヤ殿が大きな息を吐いた。マサオミ様が裏声ではやし立てた。


「騎馬兵に戻った真木マキさん強かったー、カッコ良かったー、素敵ー。……んで、その馬は何処から連れて来たんだよ?」

「いや、私もよく判らないんだ。エナミの傍に居て、名前はカガミだそうだ」


 みんなの視線が俺に集まった。カガミについてどう説明したものかと俺は困り、シキへ助けを求める視線を送った。彼は説明が上手いから。


「カガミはご主人とミズキの子供ですよ」

「ぶっ!?」


 野郎。端的たんてき過ぎんだろうが。


「!!」

「何だと!?」


 隣りの父さんが俺の顔を覗き込み、イサハヤ殿の瞳が恐ろしくギラついた。


「どういうことだエナミ、キチンと説明しなさい!」


 イサハヤ殿が怖い。ヨウイチ氏と対峙した時とは別の怖さが有る。


「いや、その、何て言うか」


 キラキラ目を輝かせているアオイの後ろで、ミユウが肩を震わせて笑いを堪えていた。こんちくしょうが。


『エナミとミズキの魂の欠片かけらが混ざり合って、そこからカガミは発生したんだよ』


 案内鳥が飛んで来て、オタオタしている俺の代わりに説明してくれた。サクラもシタタタタと駆けて来てシキの膝に飛び乗った。


「二人の魂の欠片が……」

「エナミ、キミは出産直後であんな大技を放ったのか!? 身体は大丈夫なのか!?」


 血相を変えたイサハヤ殿が走り寄って来て、俺の身体のあちこちをチェックし始めた。


「いて、そこは痛いです、骨折れてます。お、俺は大丈夫ですから!」

「しかし産後は安静にするのが常識だろ? 横になった方がいい」

「自然に剝がれた魂の欠片からカガミは生まれた訳で、実際に出産したんじゃありません!」

「あ、そうか」

「それにどうして俺が母親になるんですか! ミズキの方がよっぽど女性らしいでしょう!?」

「え」


 イサハヤ殿だけではなく、俺以外の全員が顔をしかめた。ヨモギまでもが首を傾げている。


「ミズキくんは……男だろう?」


 遠慮がちに言った父さんに俺は反論した。


「俺だって男だよ! ミズキは天女のように美しいだろ? 父さんだってあいつを女性かもって思ったじゃないか!」

「……まぁ、美丈夫ではあるよな。でも中身は男性的だと思ったぞ? 潔いし、関係を問い詰める俺から目を逸らさない度胸も有った」

「うん、男よね」


 アオイが頷き、トモハルが丁寧に説明した。


「出世欲、おまえに対する独占欲に支配欲。ミズキは男が抱きがちな欲をしっかり持っていたぞ」


 そういえば……。様々な場面でミズキにはリードされていたような気がする。あいつの方が年上だからそんなものかと思っていたが、ミユウの言うところの支配欲、まうんとぽじしょんだったのだろうか?


「その点エナミは女子に警戒心を抱かせないよね。男独特のがっつき感が無いと言うか、一緒に居ても怖くないのよ。トオコも心を許しているようだったし」

「いや俺だって女性の胸元とか生肌とか気になりますよ? ジロジロ見るのは失礼だと思うから遠慮しているだけで」


 何を暴露しているんだ俺は。


「遠慮してくれてるでしょ? そこが女子にはありがたいのよ。兵団の男連中なんて私の着替えとか覗こうとするからね。槍を振り回したら土下座してきたけど」

「なっ……、けしからん、誰と誰だ! 女性に対して!」

「中隊長にならガンガン見られても大丈夫です」

「ば、馬鹿者っ! もっと恥じらいを持て!」


 トモハルとアオイが脱線して口論を始めたが、女扱いされてショックだった俺は二人を放っておいた。


「俺が女役……? ええ~、無い無い、俺が~?」

『自覚無かったんだ』


 十二歳の案内鳥にとどめを刺されて俺は涙目になった。そんな俺の肩にイサハヤ殿が優しく手を乗せた。


「気にするな。キミがそれだけ愛らしいということだ」


 慰めになっていません。

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