地の底の戦士達(五)

「おいおい真木マキさん、その馬どっから連れて来た……?」

「連隊長……!」


 カガミに乗って颯爽さっそうと登場したイサハヤ殿を見て、マサオミ様とトモハルは目を丸くした。しかし直後に嬉しそうに笑った。


『ほう、力有る良い馬だ。真木マキショウマの孫イサハヤよ、貴様も騎馬兵であったか』


 ヨウイチ氏に問われたイサハヤ殿は、最強の管理人にも負けない貫録かんろくかもし出していた。


「はい、草薙クサナギヨウイチ殿。貴方が創立し貴方が育てた、州央スオウ兵団騎馬部隊に属しております」

『ワシと一騎打ちの勝負を望むか?』

「いいえ。貴方お一人に仲間全員で、全力で攻めさせて頂きます」

『くっ……うわははは!』


 ヨウイチ氏は大笑いをした。


『それでいいイサハヤ。国や人民を守る為に必要なことは格好つけではない。何としても勝ってやるという気概と地道な準備だ』


 かつて州央スオウで最も慕われた将軍の片鱗を覗かせながら、ヨウイチ氏は槍を構えた。

 イサハヤ殿も長い太刀を構えた。


真木マキイサハヤ、参ります!」


 カガミが駆けてヨウイチ氏に接近した。待ち構えていたヨウイチ氏が突き出した槍を彼女はかわし、イサハヤ殿が振るった太刀はヨウイチ氏に避けられ空を切った。

 最初の一手は互いに攻め切れないまま終わるかと思ったが、すれ違いざまにカガミが、後ろ脚でヨウイチ氏の馬の胴体を蹴り上げた。


『うぬっ……!』


 数歩よろめいたヨウイチ氏へ俺が矢を放った。その矢は彼の槍に弾かれてしまったが、俺が神器の弓で矢を飛ばせることが証明された。


牝馬ひんばのようだが相当なじゃじゃ馬だな。それとあの射手……イオリの弓を使いこなすとは。くははははっ』


 ヨウイチ氏は笑いながらイサハヤ殿へ突進した。槍が僅かに輝く。


ようやく新しい時代がやって来そうだ!!』


 衝撃波をまとった槍の一撃をカガミは飛び退いて避けた。空気と摩擦を起こしているのか、槍はバリバリと音を立てている。

 その槍を振り回してヨウイチ氏はイサハヤ殿を襲うが、カガミがジグザグに走って上手くかわした。

 いいぞ、いい動きだ!


「はあっ!」


 逆にイサハヤ殿が太刀で突いた。切っ先がヨウイチ氏の肩当てを飛ばした。

 ヨウイチ氏の反撃の槍はカガミが横に逃れ、馬上のイサハヤ殿がマントをひるがえして長太刀でヨウイチ氏の身体を削る。


 凄い。カガミの能力も高いのだろうが、騎乗したイサハヤ殿はこんなにも強いのか。駆け付けた俺とシキは彼の剣技に見とれてしまった。左脚の負傷で動きに制限の有るヨウイチ氏は、完全にイサハヤ殿とカガミの人馬一体攻撃に押されていた。 


 シュグッ。

 イサハヤ殿の刃で左手の甲を斬られたヨウイチ氏は、たまらず後ろへ数歩下がり退却……すると見せかけて、腕を伸ばして槍を前に突き出した。イサハヤ殿の胸を目掛けて。

 カガミの回避が間に合わず、イサハヤ殿が受け太刀で槍を止めた。

 バチィッ!


「!?」 


 感電? 太刀を通して衝撃波がイサハヤ殿とカガミに流れ、両名の身体を痺れさせた。

 瞬間的に金縛り状態になった彼らに、ヨウイチ氏は槍を構え直して追撃を加えようとした。


「りゃあっ!」


 それを防いだのはアオイだっだ。勇ましい声と共に彼女は自身の槍をヨウイチ氏へ投擲とうてきしたのだ。それ、投げるのに適した小槍じゃないんだが。

 だというのに大した肩の強さだ、アオイが投げた槍は鋭い角度でヨウイチ氏の喉元まで迫った。


『ちっ』


 アオイの槍をヨウイチ氏は左手で掴んで止めた。その隙にマサオミ様が接近し、回転するように身体を捻って馬の胴体左面を太刀で一文字に切り裂いた。


 ザシュウッ。

 これは深く入った。大量の血が吹き出し、返り血でマサオミ様の顔と白装束が真っ赤に濡れた。


桜里オウリ魂なめんなぁっ!!」

『おのれっ……』


 形勢不利を悟ったヨウイチ氏は再度空へ飛翔した。


「マズイぞご主人!」


 上へ逃れた彼は、きっとまたあの恐ろしい溜め攻撃を使ってくるに違いない。

 俺とシキは連射を繰り返して必死で止めようと試みた。

 ああ、しかし矢は当たらない。ヨウイチ氏の槍が光り出す。

 何とかしないと。ヨウイチ氏はイサハヤ殿を狙って槍を投げるだろう。彼を倒されたらもう俺達はお終いだ。


「くう、ううううう!!」


 俺の身体中が熱くなった。同時に手にした父さんの弓が白く光り出した。そして徐々に長く伸びていった。


「ご主人……!」


 シキがその光景に目を見張った。管理人の父さんを倒した時に起きた変化が、今また起きていた。

 ヨウイチ氏を止めたいという俺の願望が弓矢を変貌させたのだ。強く、鋭く。溜め攻撃に対抗できる手段はもうこれしかない。


「ううう!」


 やはり長くなった弓が重い。弦が固くて引けない。指が千切れそうに痛む。

 あの時はミズキに手伝ってもらった。今度はシキに頼んで……いや、駄目だ!

 今使っているのは地獄の神器なのだ。相性が良い俺ですら血液が沸騰しそうに苦しいのに、シキが触れたら彼の身体がどうなってしまうか判らない。


「あぐうぅぅぅぅ!!」

「ご主人!」

「近寄るな! 絶対に俺に触れるな!! ああああ!!」


 痛い、苦しい。あの時よりもつらい。身体がバラバラになりそうだ。骨が折れているからか? いいや、これが神器だからだ。俺の弓よりも多くの気を吸収している。だからこそ強いはずだ。撃てさえすれば。

 ヨウイチ氏の溜め行動がもうすぐ終わる。

 早く、早く、何本か指が飛んでも構わない、早く弦を引け!


(エナミ……)


 優しい声が俺の頭に囁き掛けた。


(大丈夫、やれるさ)


 そして弓を支える俺の手の上に、半透明で光る別の手が重なった。形の良い爪と長い指。俺はその手の持ち主を知っていた。

 ミズキ……?


 続いて小さめで豆だらけな手が、弦を引く俺の指に重なった。


(仕方ねぇから、手伝ってやるよ)


 マヒト……?


 弦が最大まで引かれて弓がしなった。

 何だこれは? 彼らに会いたいという願いが引き起こした幻か?

 身体の痛みが和らいで温かい想いが俺の中に流れ込んで来た。励ましと、大好きだという感情。

 ……居る。彼らはここに居るんだ。この戦場に、まだ。

 涙が溢れそうになった。こらえろ。視界がぼやけたら狙いが甘くなる。

 弓矢は眩しい程の輝きを放った。澄んだその光は彼らの魂を連想させた。


「ご主人、いけるぞ!」


 弓の輝きに気づいたヨウイチ氏が槍の向きをこちらに変更した。父さんの時と同じだな。あの時はミズキと一緒に矢を放った。


「エナミ、やれ!」

「撃てーーーーッ!!」


 今回は仲間達の声が俺の背中を押してくれた。

 行こう、みんな。これで終わりにしよう。


 俺は弦から指を離した。




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