それぞれの恋(二)
ミズキとシキも俺達の対面に座った。
「おまえら誰かとヤルの初めてだったんだろ。どうだ? 良かったか?」
「言わねーよ、ばーか」
「最高だった」
「ちょっ、ミズキ!!」
「おおー。お互い最初は手こずるモンなんだが、いきなり上手くやれたのか?」
ミユウのデリカシーの無い質問に、シキがしれっと答えた。
「見た感じ大丈夫そうだったぞ」
「おいシキ、見た感じって何だ! おまえ見てたのか!? おい!?」
「いやほら、俺って護衛じゃん? たまにご主人が無事かどうか確認しないといけないからさ」
「見てたのかーー!!」
「ワリィ。ご主人が心配だったんだって。これはマジだかんな?」
「だからって、だからって……あんなトコ……」
「チラッと見ただけだって。泣かない泣かない」
俺は三角座りして立てた両膝に顔を沈めた。何でみんな平気でいられるんだ? こんなこと話して恥ずかしくないのか? これが大人の余裕ってやつ? ミズキは俺と二つしか違わないのに。
「おやおや真っ赤だねぇ。エナミくんは一線を越えた後もお子ちゃまなんですねぇ~」
ミユウに小馬鹿にされて頭をガシガシ撫でられた俺は、睨みながら奴に尋ねた。
「人のことをどうだこうだ言う前にミユウ、あんた自身に好いた相手は居ないのか?」
「ん~俺? 俺は線が細い男が好きだから、ミズキはかなりタイプだよ~? いっつも相手してくれないけどな。あ、最近はシキもいいと思ってる」
「うぉ、やっぱり俺のことも狙っていやがったか」
シキが身構える横で、ミズキが冷めた口調でミユウの発言を否定した。
「俺や隊の男に対しては暇潰しでちょっかい掛けているだけだろうが。エナミが聞いているのはな、本命が居るかどうかということだ」
「ハン、おおかた本命に相手にされないから、寂しくて俺達をからかって遊んでいるんだろ?」
俺の意地悪な指摘を受けたミユウが真顔になった。俺としてはからかわれたことに対する、ちょっとした反撃のつもりだったんだが。
「……けっこう言うね、エナミくん」
あれ、図星だったのか? 本当にコイツ誰かに片想いしているのか? だとしたら口が過ぎたかな。
「ええと……ごめん、無神経なことを言った」
咄嗟に出た俺の謝罪の言葉に、ミユウは苦笑いした。
「おまえは~。散々俺達に無神経なこと言われて、何で真っ先に謝るかね」
頭をぐりぐり撫でられた。力が強すぎる。頭が揺れて目が回りそうだ。
「や、やめてくれ、酔う!」
「ふ」
ミユウは頭から手を離して、フラフラしていた俺の背中を支えた。
「ヒント。俺が好きな相手も酔いやすい人だ」
「え……」
「地獄の統治者か」
ミズキがズバッと言い、ミユウはまた苦笑いをした。
「ご名答。よく一発で当てたな」
「好き勝手やっているおまえが気を遣う、唯一の相手だからな」
「ふふふ……」
「え、本当に地獄の王様に恋をしているのか?」
一度だけ会ったあの人は穏やかで浮世離れしていて、とても恋愛に重きを置くタイプに見えなかった。それに俺達には親切だったが、ミユウに対しては素っ気ない態度だった気がする。
「凄いだろ、地獄時間にして三千六百年越えの恋だ」
「三千……?」
シキが呆気に取られていた。それは俺達もだが。
「体感時間にするとそうだ。地獄や天界では現世よりも六十倍早く時間が流れているんだ。落ちた魂への救済措置らしい。そうしてやらないと、世界の終わりが来ても浄化できない魂が出てくるからさ」
「へ……はぁ!?」
シキはまだ混乱していた。
「エナミ達はここへ落ちてちょうど十日目だが、現世ではまだ四時間程度しか経ってねぇってコト」
「ええっ、そうなのかご主人!?」
「そうみたいだな、未だにしっくり来ないが。ここでいろんなことを体験したのに、実際はまだ四時間なんてさ……。でもだからこそ、俺達には現世へ生還できるチャンスが有るんだ」
「なるほどな……。それでミユウ、おたくは三千六百年も一人の相手を想い続けてきたのか?」
シキに蒸し返されたミユウは地面を見つめた。
「脈が無いからさ、何度も諦めようと思ったよ? でも仕方ねーよな。他の誰かを追っ掛けてもあの人ほどには好きになれねーんだもん。心を完全に持っていかれちまってる。恋すりゃ誰でも不器用になるもんだろう?」
「いや……実は俺、本気で恋愛したことがなくて」
「シキ、おまえも難儀な性格だねぇ……」
シキに苦笑で返したミユウは、俺の頭に自分の頭をコツンとぶつけた。
「エナミ、三千六百歳上のお兄さんはけっこう純情だろ?」
それが恋をするということなのだろうか。俺はミズキと両想いになれて幸せだが、彼と離れ離れになったらどうなるのだろう。ミユウのように報われないと解っていても想い続けるのか、それともすぐに吹っ切ってしまうのか。
……嫌だ。ミズキのことを忘れたくない。ずっと彼のことを好きでいたい。たとえ苦しくても。
「よし、それじゃあ話の続きだ。ミズキとエナミ、どっちが誘ってそうなったんだ? どっちも奥手に見えるから想像がつかない」
「あんたなぁ……」
再びミユウに肩を抱かれて俺は考えた。ミユウが
同じことを思ったのか、いつもは俺への接触を阻もうとするミズキが、今日はミユウを止めようとしなかった。
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