拠点変更(二)

 俺は一つ思い当たった。


「あそこ……、小さな丘が密集しているエリアはどうでしょう?」

「ん? 何処のことだ?」


 マサオミ様に問われて俺は詳しく説明した。


「俺達の魂が初めて落ちた場所、枯れ木と乾いた土に覆われたエリアの近くです。丘……と言うほどは大きくはないかな、地面が隆起りゅうきしていて幾つも土の突起物が在るんです。その土が傘のような形状なので管理人の目に入りにくいです」


 俺が靴職人の青年に出会い、管理人のマホ様に初めて襲われた所だ。


「んー……? 俺は知らない所だな。魂が落ちたエリアの次は岩場を通った気がする」

「俺達は森林地帯だったよな、ミズキ」

「ああ」


 俺達はみんな乾いた土のエリアへ落ちたが、そこから各々別方向へ散ってしまっていた。しかしイサハヤ殿はピンと来たようだ。


「エナミ、私達が再会した湿地帯に隣接した地域か?」

「そうです!」

「あそこか。あそこは私も通った。確かに良い場所かもしれないな」

「はい。土壁で空の敵から身を隠せますし、片側が崖に面しているので、地上を移動する敵に対する見張りも少なく済みます」


 感心したようにマサオミ様が言った。


「なるほど、そいつはいいな。俺が通ったトコは岩場とか砂漠とかヤバイ獣がわんさか出る密林とかが多かったから、拠点としてお勧めできるモンじゃねぇんだよな」


 よく俺達と再会するまで生きていられたなこの人。


「ここからだと方角はどうなる?」

「あ……、すみません、よく判りません。あの時はまだ太陽の位置に注意していなかったので……」


 セイヤを捜してがむしゃらに走って辿り着いた場所だったんだよな。


『僕に聞きたいこと有る?』


 ヤレヤレといった風に鳥が口を挟んだ。そうだ、こいつが居たんだ!


「案内人、さっき俺が話した地面が隆起した場所の位置を教えてくれ」

『ここから西南方向だ。まずは丘を下りて森林地帯を西へ抜けなよ。そして少し南に下った所にその場所は在る。歩いて片道四時間ってとこだね』

「四時間か……。生者の塔からはだいぶ離れてしまうことになるな」

「急がば回れだぜ、真木マキさん。このまま生者の塔に向かって、三人の管理人相手に戦うよりはいいだろう?」

「そうだな。適した場所で管理人の各個撃破を狙おう。異論の有る者は居るか?」

「有りません」

「私もそれがいいと思います」


 みんなは賛成の意思を表明した。


「決まりだ。アオイ、具合はどうだ?」

「……歩くことに支障は有りません。行けます!」

「よし、ではさっそく出発する。トモハル、引き続きアオイを見てやってくれ」

「はい!」


 俺達は立ち上がった。


「マサオミとミズキ、ヨモギが先発隊を務めてくれ。トモハルとアオイ、セイヤとランが続き、私とエナミとシキが後方隊だ」

「了解、それでいいぜ」


 ミズキと離れて歩くことになったか。新しい拠点に着くまで彼とは話せそうにないな。だがイサハヤ殿が提案した隊編成に文句は無い。近距離攻撃型の先発隊が露払つゆばらいして、後発隊の俺とシキが弓で後ろからサポートをする。背後から襲って来る敵に対してはイサハヤ殿が対処してくれるだろう。

 無事にランと弱ったアオイを守り切らないとな。


「アオイ……」


 モリヤが倒れた辺りを見つめるアオイにトモハルが声を掛けた。


「すみません中隊長、大丈夫です」

「無理はしなくていい」

「いえ、少し無理をします」


 アオイは精一杯の笑顔を作った。


「モリヤが矢の前に立ってくれなかったら、私は確実に死んでいたでしょう。ランだって……。私の命はモリヤが繋いでくれたんです。だから私は生き延びて、無理をしてでも絶対に幸せになってやるんです!」


 健気に覚悟を語るアオイは美しかった。トモハルは赤い目をした彼女に微笑んだ。


「その意気だ。生き延びることの第一歩、まずは私の手を取れ」

「え……?」

「私が手を引いてやる。体力はできるだけ温存しておけ。いざという時の為に」

「は……はいっ」


 アオイは少し恥ずかしそうに、それでも手を伸ばしてトモハルと繋いだ。

 先発隊はもう歩き出していた。セイヤとランも。トモハルとアオイはやや遅れて彼らの後を追った。


「我々も行こうか、エナミ」

「はい」


 アオイだけじゃない。俺も丘を離れるのはつらかった。ここはマヒト、トオコ、モリヤの三人の仲間達を見送った場所だから。

 暗い顔をしたつもりは無かったのだが、俺の心中を察したのかイサハヤ殿が俺の背中をタンタンと軽く叩いた。さり気無いその気遣いが嬉しかった。きっと彼も同じ気持ちなのだ。


「けっこう長く歩きますわね。足が太くなりそうですわ」


 しれっとミユウが後発隊に加わっていた。シキが怖々聞いた。


「おたくって、男だよな? ゴッツイ鎧着て斧を振り回して俺を威嚇いかくしたあの戦士だよな?」

「あら覚えていて下さったなんて光栄ですわ」

「そりゃ斧向けられる経験なんてあんまり無いからな。女の姿から戦士に変身する奴に遭遇する機会はもっと無いよな。んで、何でおたくは俺にピッタリくっついているワケ?」

「新しく隊に加わった方をよく知りたいと思いましたの」

「相手を知ろうとするのは良い心掛けだ。だが手段が良くない。話しながら俺の尻をまさぐるのはやめてくれないか」


 何やってんだあいつ。


「おいっ、揉むな! つまむのもやめろ! ご主人、こいつ何なんだよ!?」

「ああ、何か地獄の統治者の使者らしいよ?」

「何ですのエナミ、そのやる気の無い説明は」


 ミユウは頬を膨らませてむくれて見せたが可愛くない。心の底からどうでもいい。


「地獄の統治者……? は? 何ソレ……」

「地獄の王だよ。この間会った」

「はいぃ!? 嘘だろ!?」

「本物みたいだ。戦わなくても強いって判ったし、目の前で瞬間移動した。酔ってたけど」

「えええ……?」


 シキは困惑していた。俺達も自分の目で見なければ信じられなかった。


(そういえば……)


 統治者は俺とミズキが自分と相性が良いと言っていた。今は知る必要は無いらしいが、あれはどういう意味だったのだろうか……?

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