イオリ来襲(三)
その時、東方向から正確で鋭い矢が飛ばされて父さんの翼を掠めた。しかも矢は連続で放たれた。
(は? まさか!)
俺は我が目を疑った。セイヤはこの短期間で連射もできるようになっていたのか? 嘘だろう!?
連射には高度な技術が必要だ。正確な射撃はたまたまだろうが、弓を手にして一ヶ月程度の人間が連射を成功させたことに俺はとても驚いた。
父さんの仮面もそうだったようだ。仮面はセイヤの腕を侮っていた。それ故に二本の矢をかわす為に少し態勢を崩した。
(ここだ!)
俺も便乗して連射した。一本が父さんの右手を僅かに傷付け、溜め攻撃を中断させた。やった! 俺は大声を周囲に響かせた。
「次の溜め攻撃まで時間が開きます! 今のうちに負傷者を避難させて下さい!!」
「おうよ!」
マサオミ様とミズキが
イサハヤ殿が刀を構えて通常矢に備えている後ろで、マサオミ様とミズキがモリヤを運び、トモハルがアオイに肩を貸し、積極的な手助けが出来ないはずのミユウがランを抱き上げた。
『急いで、こっち!』
案内鳥に先導されて救助隊は左手の大樹密集地へ隠れた。鳥、おまえ地獄の統治者に注意されたばかりなのに……。
これら行動中にも驚くことに東からの矢はやまず、その後も正確な狙いで父さんを襲い続けた。急に技量が爆上がりしたセイヤの矢を、いくら何でもおかしいと感じつつも、好機であることに変わりなかったので俺も矢を撃ち続けた。
「……………………!」
二方向から矢の雨を浴びせられた父さんは上昇し、そして方向を変えて飛び去った。形勢不利だと判断してくれたようだ。
その姿が完全に見えなくなってから俺は腕を下ろした。短時間に何十本も矢を放った腕はダルくなっていた。
父さんとの関係は遠いままだが、ひとまず助かった。
「よくやってくれた、エナミ」
イサハヤ殿が俺を
「エナミ!」
東方面からセイヤが駆けて来た。左上腕に出血が見られるがその腕であれだけの矢を放ったのか? 大丈夫かと声を掛けようとした俺は、セイヤが弓も矢筒すら持っていないことに気づいた。
「おいセイヤ、装備品はどうしたんだ?」
「あいつに無理矢理奪われた! 殺されるって思ったら、あいつ俺じゃなくてイオリおじさんを狙って……」
セイヤが目配せした先には、彼の弓矢を代わりに装備したシキの姿が有った。
「シキ……?」
いつの間にか姿が見えなくなっていたが、矢の弾道を読んでセイヤの元へ行っていたのか?
「な、なぁエナミ、あいつって敵じゃないのか?」
「今は違う。シキ、さっきの射撃はおまえがしたのか?」
歩いて俺達の傍へ来たシキに尋ねた。
「ま、役に立つってことを証明しとかなきゃならないんでね」
なんて器用な男だ。一刀も二刀もこなし、その上で弓まで扱えるとは。隠密隊の隊長というのは伊達じゃないな。
セイヤは俺とシキの顔を交互に見てから、怒ったように言った。
「どういうことだよ!? 全く訳解んねぇよ! 解るように説明してくれよ!!」
それはそうだ。シキを倒しに行ったはずの俺達が、そのシキを仲間にして帰って来たんだ。セイヤでなくても混乱する。
「シキは
イサハヤ殿が冷静に事実を述べた。もう父さんのことから気持ちを切り替えたらしい。流石だ。
「エナミとですか!?」
「そうだ。だからもう敵ではない」
「で、でもこいつらは……」
「詳しい話は後でする。今は負傷した皆の様子を身に行こう」
「誰かやられたのですか!?」
セイヤが居た位置からは見えなかったか。
「説明している時間が惜しい。とにかく皆の元へ向かうぞ!」
俺達はみんなが避難した方向へ走ったが、見当たらない。何処へ言った?
「
マサオミ様が少し離れた所から手招きした。溜め矢の衝撃余波を受けないように、負傷者達はけっこう遠くまで運ばれていた。
「イオリさんは完全に去ったようだな」
「ああ。マサオミ、皆の傷の具合はどうなんだ?」
「……良くはねぇな。覚悟してくれ」
覚悟? そんな……。
「ラン!? ランもやられたのか!?」
ミユウに抱かれたランを見たセイヤが蒼ざめた。
「……ランは軽傷ですわ。気を失ってはいますが、アオイの腕で守られていたので頭も打っていないはずです」
トモハルが続いた。
「アオイは重傷だが死ぬ怪我ではない。だが……」
トモハルに支えられるアオイが見つめる先にモリヤが寝かされていた。
「モリヤは……もう
セイヤがヒュッと息を吸った。
「そんな! モリヤさん駄目だ、しっかりしてくれよ!!」
セイヤは横たわるモリヤの元へ行った。俺はその場に立ち尽くした。
身体に父さんから三本の矢を受けたモリヤ。その内の一本、左胸に刺さったものが致命傷となったのだ。地獄の超回復が追い付かないほどの傷……。
何度か吐血したのだろう、口の周りが赤く汚れていた。そして彼の視線は
覚悟をしろ。マサオミ様の言葉が重くのしかかる。
「モリヤさん、モリヤさん!」
セイヤの声が虚しく丘にこだました。
ずっと一緒に居た部下の最期に向き合えないアオイは、まばたきすら忘れて呆然としていた。
「とどめを……」
イサハヤ殿が進み出たが、
「大……丈夫です連隊長……。もう痛みは……有りませんから……」
当のモリヤが止めた。
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