七度目の夜(二)
なるほど、話し尽くされた有名な童話だ。
「おばあちゃんは、ひとりでもりにすんでるの? さびしいね」
『だね。だけど大丈夫。優しい女の子がちょくちょく遊びに行ってあげているからね』
「ランにもおばあちゃんがいたら、ぜったいあそびにいく!」
いちいちランの感想が入る。小さい子に童話を聞かせるって大変だよな。
俺もセイヤの妹に何度かせがまれたっけ。刺激的な話の方が退屈させないと思って、人喰い鬼や妖怪が出て来る
『ところが困ったことに、おばあちゃんの家が在る森には、人を騙す悪い狼が棲み着いていました』
ここでヨモギがグルルルルと唸って鳥を
『……悪いのは見かけだけで、実は狼さんはとてもイイ奴でした。お花を摘んでいけばおばあちゃんはもっと喜ぶよと、女の子にアドバイスしました』
おい、その話は狼がおばあちゃんを食べてしまう筋だったよな? 狼を親切なキャラに改変したら悪者が物語から居なくなってしまうのだが、進行は大丈夫か?
鳥は俺の方を一度チラリと見てから、話を続けた。
『女の子がお花を摘んでいる間に、おばあちゃんの家には狩人が入り込んでいました。実はこの狩人こそが悪い奴だったのです』
なるほど。狼の代わりに狩人を悪者に仕立て上げたか。ん? 何で俺をチラチラ見ながら話す? ひょっとして狩人って……。
『狩人はおばあちゃんに弓を向けて、この家から出て行くように脅しました』
「ひどい、どうしてそんなことをするの? おばあちゃん、すむところがなくなってこまっちゃう」
『狩人はおばあちゃんを追い出したその家で、恋人と一緒に暮らそうと計画していたのです』
何だよその生々しい設定は。それに狩人って俺のことじゃねーだろーな。
「そうなんだ。かりゅうどさんもしあわせになりたかったのね」
ランは素直に納得した。女の子はこういうところが早熟している。おばあちゃんへの心配はどうした。
「かりゅうどさんのこいびとってどんなひと?」
『髪の長い綺麗な顔をした青年剣士だよ。狩人より二つ年上かな』
具体的な人物像を表に出されて、俺は非常に嫌な予感がした。この手の予感はだいたい的中するんだ。
「ランしってる。せいねんってわかいおとこのひとでしょう? こいびとがおとこのひとなら、かりゅうどさんはおんなのひとだったの?」
『どちらも男だよ。二人はガチホモでした』
俺とミズキ、セイヤが揃って噴き出した。セイヤに至っては鼻水まで噴いた。
「鳥、テメェ! 何だその物語は!!」
俺は堪らず突っ込んだ。
『え? 罪の無いただの童話だけど? あと僕のこと鳥って呼んだ?』
「噓吐け! 絶対に俺とミズキをモデルにしてるだろ!?」
『自意識過剰だな~』
「狩人より二つ年上の長髪で美形の青年剣士って、ミズキしか居ねーじゃねーか!!」
「とりさん、ガチホモってなあに?」
『男の子同士が仲良くすることだよ』
「ランも鳥って言ってるじゃねーか! ひいきすんな!」
『あーうるさい』
「エナミ、落ち着け」
黙っていたミズキが久し振りに口を開いた。
「なかなかに独創性の強い物語だ。続きを聞こう」
ええ? 褒めちゃうの?
「あんたも怒れよミズキ。俺達のことネタにされたんだぞ?」
「先が気になる。案内鳥、狩人と剣士はこの後どうなるんだ?」
『え、ええ……?』
「先なんて聞いてどうすんだよ!」
「おばあさんという犠牲を払ってでも愛を貫いた二人。幸せになれたのか破滅の未来を迎えたのか、そこが重要だ」
『そんな重いテーマなんか無いんだけど……』
「……く、くく…………く」
不毛なやり取りをしている中、セイヤの肩が震えていた。一瞬また泣かせてしまったのかと心配したのだが、
「ぷはっ、はははははは!!」
セイヤは大笑いした。
「ははっ、最高だ! 俺の仲間は馬鹿ばっかりで気のイイ奴らだ! みんな、大好きだぜ!!」
「……セイヤ?」
セイヤが笑いながら隣りの俺に抱き付いて来た。
「エナミ、好きだ! ミズキも好きだ! 絶対に死ぬなよ!! 俺達はずっと一緒だからな!」
俺とミズキは顔を見合わせてしばし沈黙したが、その後に笑った。
「ああ、ずっと一緒だ。地獄にまで一緒に落ちた仲だからな。ズブズブの間柄だ」
「そう簡単に切れる縁じゃない。これからもずっと一緒だ」
俺はセイヤを抱きしめ返し、俺の後ろからミズキも抱き付いて来た。
『あーあ、男同士のじゃれ合いは絵面が汚い』
「おとこのこどうし、みんななかよし……。これがガチホモなのね……」
ランに完全に誤解されたが構うもんか。好きに見てくれ、これが男の友情だ。暑苦しいが決して揺るがない絆なんだ。
俺は誓う。俺の死がこいつらを苦しめることになるのなら、決して死なないと。そしてもう誰も死なせないと。
帰ろう、現世へ。地獄に一緒に落ちたのなら、帰る時だってみんな一緒だ。
誰も独りにしない。俺はその為に戦う。
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