仲間達と
遠くでする人の話し声。だけど俺の周囲はとても静かだった。わずかな虫の鳴き声まで聞き取れるほどに。
薄目を開けて周囲を窺った。俺は大きな樹の陰に入るように寝かされていた。
……俺はどうしたんだっけ? 静寂の中でしばし考えを巡らせた。
ああそうだ、家族の話をイサハヤ殿から聞いて、ショックで気を失ったんだ。情けないな。
もう大丈夫だとみんなに伝えなければ。俺は起き上がろうとした。
「急に起き上がらない方がいい。
頭上から力強く、しかし優しい声が降り注がれた。鎧を脱いだイサハヤ殿だった。
俺は仰向けの姿勢のまま尋ねた。
「……ずっと付いていて下さったんですか?」
「いや、交代しただけだ。私の前はミズキという青年剣士、その前はセイヤ。彼はキミの幼馴染だったね?」
イサハヤ殿は微笑んだ。
「皆キミをとても心配している。良い仲間を得たようだな」
何だかくすぐったかった。
「ふ、こうしているとあの時のことを思い出す」
「?」
「キミが崖から私の元へ転がって来た時のことだよ」
「……ああ! 地獄で初めてお会いした時のことですね。動けない俺を草むらまで運んで下さって、二人で寝転んで管理人をやり過ごしたんですよね」
「そうだ。こんな風にな」
イサハヤ殿が俺の隣りに寝そべった。俺達は顔を見合わせて微かに笑った。
「すみません。俺のせいで今日一日を潰してしまいましたね」
あれから六時間経ったのなら、もうすぐ夕暮れの時刻だ。そんなに寝てしまっていたのか。嫌な夢を見たような気がするが、内容を思い出せない。
「
相変わらず優しい人だ。
それが運命が
「……生者の塔へは明日向かうのでしょうか?」
「そうしたいところだが……。
「あ、はい。同士討ちをしたとか……」
「彼らの動向を掴まない限り迂闊に動けない。最悪、管理人以外にも敵が増えるかもしれない」
「そうですか……」
何人かの足音がこちらへ近付いて来た。
「おっ、エナミ。目が覚めたか……って、おまえさん達は何をしてるの?」
マサオミ様がミズキを伴って俺の様子を見に来てくれた。ミユウの姿も有った。ミズキに付き纏っているのだろう。
「あらあら、男性二人がそのように寄り添って横になって……。穏やかでは有りませんわね」
ミユウがニヤニヤといやらしい視線を向けた。おまえの基準で物事を判断するな。
ミズキに言葉は無かったが、ミユウとは違う爽やかな笑顔を向けてくれた。俺が目覚めたことへの祝福だろう。
「ま、今日はこの丘で過ごすことになったからゆっくりしとけや」
「うふふふふ。二人きりでごゆっくり」
そう言ってマサオミ様達は去っていった。だがすぐに、
「ええっ、エナミが目覚めたんですか!?」
「コラあなたは見張り役! 持ち場を離れないの!」
「ちょっとぐらいイイじゃん……」
「そのちょっとの慢心が大事故に繋がるのよ!」
向こうから賑やかな声が聞こえた。セイヤとアオイだ。この二人も気が合いそうだな。
「ははは。ここは俺が見ているよ。エナミの傍に行ってやるといい」
「ありがとうモリヤさん、すぐ戻るから!」
「もう、モリヤは甘いんだから……」
すぐにドタドタと大きな足音を響かせてセイヤが登場した。こいつは絶対に暗殺者にはなれない。
「エナミぃ~、良かっ……、うおぉ!! イサハヤさん!? どうしたんスか!?」
「……寝転んでいるだけだよ」
「そっスか! 俺兵士になるまで野宿ってしたことなかったんですけど、大地に寝転ぶってけっこう気持ちいいですよね!」
『阿保が居る』
「セイヤ、エナミは起きたばかりなんだから、あまり騒々しくしちゃ駄目よ?」
今度はトオコ、ラン、案内鳥、ヨモギ組が来た。
「おにいちゃん、おめざめよかった。もうげんき?」
「ああ、元気になったよ。ありがと……わぁっ、ヨモギ、二の腕を舐めるな!」
狼が高速で尻尾を振りながら俺を舐めた。つい反射的にイサハヤ殿の方へ押しやってしまった。
「わぁっ、舐めるな、そこはやめろ!」
イサハヤ殿もけっこうデリケートな所を舐められたらしい。すみませんでした。
「おー、エナミ、目ぇ覚めたか」
マヒトまで来た。千客万来だな。
「あれマヒト、おまえも見張りじゃなかったっけ?」
「アオイとか言う乳の小さい姉ちゃんが少しだけ変わってくれた。エナミに会いに行けって」
何だよアオイだって甘いじゃないか。あとマヒト、女性の身体のことは言うな。後で釘を刺しておかないとな。
「さ、みんなそろそろ行くわよ。うるさくしていたらエナミが休めないわ。エナミ、また今度ゆっくりお喋りしましょうね」
「え、トオコ、またって何? 今までエナミとゆっくり話す機会が有ったのか?」
「はいはい、行くわよ」
腑に落ちない様子のセイヤの背中を押しながら、トオコは俺にウィンクをした。
「俺達も行くか」
「マヒトおにいちゃん、またおはなしききたい」
「いいぜ。じゃあ俺の見張り場まで来な。じいちゃんから聞いた妖怪退治の話をしてやる」
「おひめさまでてくる?」
『僕がとっておきのお話をしてあげるよ』
マヒト、ラン、ヨモギと案内鳥も去っていった。
「賑やかだったな」
「大所帯になりましたからね。 みんな、きっとホッとしたんです。仲間ができて」
「そうだな」
二人きりになった俺とイサハヤ殿は、再び訪れた静けさに身を委ねた。
「……エナミ、イオリと狩りに出たことは有るか?」
「狩りですか? はい、何度も」
「そうか……」
遠い目をしたイサハヤ殿が笑った。
「イオリの夢だったんだよ。子供ができたら弓を教えて、休日に一緒に狩りに行きたいとよく言っていた。あいつは夢を叶えたんだな……」
「!…………」
父さんとの在りし日を思い出して、俺の瞳から涙が溢れた。
恥ずかしくて、見られたくなくて、俺は右手で両目を覆った。
そんな俺の頭をイサハヤ殿の大きな手が撫ぜた。まるで幼子にするように。前もそうだった。
きっとこの人は、俺を自分の子供のように思ってくれている。
俺も……、イサハヤ殿に甘えたいと思ってしまっている。
ずうずうしい願いだ。許されたとはいえ、俺が討ってこの人を地獄に落としたのに。
それでも撫でる手が温かくて、心地良くて……。
しばらくは誰も来ないだろう。今だけ、今だけは甘えてしまおうか。
そう思えたのは束の間、新たな来訪者が顔を出した。
「おいエナミ、調子は……。おわぁっ、連隊長!? 何をなさっているんですか!?」
「トモハルさん……」
まだこいつが居たか。間の悪い奴だ。
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(過去はプレイボーイ、現在ジェントルマンなイサハヤ。容姿を知りたい方は↓↓をクリック!)
https://kakuyomu.jp/users/minadukireito/news/16817330661747386099
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