真実を求めて(一)

 トオコとアオイが女同士で話に花を咲かせていた。その隣では人懐っこいセイヤがモリヤを受け入れ、ランとマヒトを加えた四人で盛り上がっていた。

 こうして見る限り、桜里オウリ州央スオウは上手くやっていけそうな気がする。互いの大将が柔軟性の有る思考の持ち主だったことが大きいのだろう。


「そろそろイオリについて話そうか。二人だけになれるよう場所を変えよう」


 イサハヤ殿が切り出したが、マサオミ様が待ったを掛けた。


「すまねぇが、俺も参加させてもらうぜ」

「しかし、イオリのかなり個人的な情報を話すことになる。エナミにとっても……」

「その情報を知りたいんだよ。イオリさんは国王の命令で暗殺者をやっていたんだよな?」


 イサハヤ殿の表情が固くなった。


「知っていたのか……?」

「ああ。管理人だったマホから聞いた。管理人同士は情報を共有するそうだ」

「その通りですわ」


 ミユウが近くに寄って来ていた。大将の傍に控えているミズキとトモハルが嫌そうな顔をした。


「あら、その態度は傷付きますわよ」

「男とバレた後も女言葉をやめないのか?」

「ええ。これはわたくしのルーチンワークですもの」


 よく解らない物体は放置することに決めて、マサオミ様は話を続けた。


「……州央スオウの新国王はどうもキナ臭い。国の内情を暴露することは躊躇ためらわれるだろうが、もうそんなことを言ってられないんじゃないか? 真木マキさん、あんただって命を狙われてんだからさ」

「なっ……、連隊長が狙われている!?」


 トモハルが目を剝いた。


「だろ? だから森に火を放たれた。追い詰められた苦肉の策だったならともかく、あの時はまだ州央スオウの兵は善戦していた。つまり、最初っから火責めは計画されていたんだ。桜里オウリ共々、州央スオウの高官であるはずのあんたを片付ける為にな」

「……私が火計に関与していたとは考えないのか? 自ら囮になったと」

「あんたは何も知らない部下を焼き殺せる人間じゃねぇよ。捕虜になったトモハルと再会した時に喜んでたじゃねーか。これから火が点けられることを知っている奴が、部下が生きていたと喜ぶか?」


 イサハヤ殿は自嘲の笑みを浮かべた。それが肯定となった。


「何てことを……。ずっと国に貢献してきた連隊長を殺そうとするなんて! でも、どうして?」

「国にとって、と言うより国王にとってマズイ秘密を知ってしまったからさ。真木マキさんの出世が遅い理由もそれで納得ができる。トモハル、真木マキさんが国王と戦うと言ったらどうしていた?」

「……付いていく。私が最も敬意を払う相手は連隊長だ!」


 とても重い問題だというのに、トモハルは即答した。


「な? おまえさんを始めとして真木マキさんを慕う州央スオウ兵は多い。だから真木マキさんは司令官になれなかったのさ。師団を与えたら丸ごと奪われて、国王に対して反旗をひるがえすんじゃないかと危険視されたんだ」

「くそっ……!」

「そして国王の秘密とはイオリさんに関係することだ。あの人は国王の命令で暗殺者をしていた。そして真木マキさん、あんたはあの人の親友だった。そうだろう?」

「……………………」


 イサハヤ殿は腕組みをした。


「大した洞察力だよ上月コウヅキ殿。キミを侮っていた。もっと直情的にしか物事を捉えられない男だと思っていたんだがね」

「昔はそうだったよ。マホによく指摘されたんだ。ま、やんちゃ坊主も成長するってことだ」

「フ……、私も腹をくくる時が来たようだな」


 イサハヤ殿は俺をじっと見た。


「エナミ、どこまで知っている?」

「父さんが暗殺者だってことと、国王から追われる身となったことだけです。細かい事情については何も知りません」


 マホ様には時間が無かった。かいつまんで聞いただけだった。


「全員にキミの過去を知られることになるが、構わないか?」


 談笑していた他のみんなも俺達の話に聞き耳を立てていた。こちらの真剣な雰囲気を察したのだろう。

 俺はイサハヤ殿の視線から目を逸らさずに言った。


「構いません。生者の塔へ行けば俺の父と戦うことになるのですから、みんなにとっても無関係な問題では有りません」

「……いいだろう。聞きたい者はそのまま聞け。ただし、州央スオウの闇を覗くことになる。その覚悟が有る者だけがその場に残れ」


 イサハヤ殿の凛とした声が響き渡った。トオコが動いた。


「アタシはランと一緒に向こうへ行ってます」

「そうだな、それがいい。ランを頼む」


 マサオミ様が後押しした。ランが話を聞いたところで理解できないだろうが、場の異様な雰囲気が彼女を怖がらせるだろう。

 トオコはランを連れてヨモギの元へ行った。あそこならここから様子を見られて安心だし、話し声が届かない絶妙な距離だ。


「他の者は?」

「残ります」

「私も聞きたいです」


 皆が口々に残留することを選ぶ中で、俺はセイヤへ去ることを促した。


「おまえも向こうへ行った方がいい。おまえは現世に戻ったら村へ帰るんだ。余計なことに関わるべきじゃない」

「村に帰る時は、一緒だろ?」


 セイヤは俺に笑顔を向けた。


「だからそれまでに、問題を片付けておかなくちゃな」


 ……こいつは。馬鹿野郎、何度俺を泣かせようとする気だ。


「戦士達は全員話を聞く、それでいいな?」


 イサハヤ殿の再度の問い掛けに、セイヤは元気良く「はい!」と答えた。

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