ミユウの秘密
暴れ掛けたマサオミ様を俺とミズキで宥めている間に、原因となったアオイはトオコの元へさっさと移動して自己紹介を始めていた。たいしたタマだ。
「私はアオイ。三姉妹の長女で二十三歳よ。あなたは?」
「アタシはトオコ。一人っ子の十九歳」
「へぇ、大人っぽいのね、同年代かと思っていたわ! そちらのあなたは?」
アオイはミユウにも声を掛けたのだが、ミユウはツンとすまし顔でアオイを無視した。ムッとしたアオイをトオコが慰めた。
「気にしないで。あの人、男の人にしか興味が無いみたいだから」
トオコが言った通り、モリヤが近付いて来た途端にミユウは満面の笑みを作った。露骨な奴だ。
「分隊長、まだ会談の途中なんですから勝手に動き回るのは……」
「あら、もう共闘は決まったんだしいいじゃない。ここからは親交を深める時間でしょう?」
以前アオイに会った時は
「わたくしミユウと申しますの。あなたのその髪と瞳の色、とても素敵ですわね」
ミユウが割り込んでモリヤに話し掛けた。
「あ、ありがとう。やっぱり色が薄いの判っちゃうか……。ガキの頃に比べたらだいぶ黒に近くなったんだけど」
それは俺も前に思ったことだった。明るい丘の上では余計に、モリヤを形成する色素が薄く感じた。
「俺はモリヤ。会ったことないけど、父親がイザーカ国の人間らしいんだ」
「あらまぁ、奇遇ですわね! わたくしもイザーカ出身ですわ!」
「えっ、そうなんだ!?」
となるとミユウも人間か。
「瞳が青いし、髪の毛も色を抜いた訳じゃないんだね?」
「もちろん天然の
ブハッ。何人かが噴き出してむせた。衆人環視の中で何てことを言いやがるんだこの女は。
「い、いや、それは遠慮しておくよ。それにしてもどうしてここへ落ちてしまったの? 旅行中の事故とかで?」
「詳しくは申し上げられませんの。
「ご主人様が居るの?」
「ええ。この地獄を統治するお方ですわ」
「えっ……」
モリヤが言葉を失った。他の
「……ミユウとやらが言っていることは本当か?」
イサハヤ殿が問い、冷静になったマサオミ様が答えた。
「判らん。管理人を短期間で倒した俺達を監視することが目的らしいが」
「あら、聞こえが悪いですわ。主様は強い皆さんに興味を示されただけですわよ」
「とまぁ、あんな具合にはぐらかされてしまうんでな」
「はぐらかすだなんて……」
「要注意人物だと言うことだな」
「そ。部下達には警戒するよう指示を出してくれ。男は特に尻を守るようにと」
「そうだな」
ん? マサオミ様とイサハヤ殿のあっさりとした会話の中に、重大なワードが含まれていなかったか?
「あの、尻を守れとはいったい……」
俺は恐る恐る聞いた。
「男好きで行動力の有る男は危険だという話だ」
あれ? 男というワードが二回出て来なかったか?
「男……?」
「ミユウは男だ」
俺の頭に鈍器で殴られたかのような衝撃が加えられた。
「遠目で見た時は女かと思ったが、近くで見たらすぐに判ったぞ」
「うん、どう見ても男性だな」
イサハヤ殿もうんうん頷いてマサオミ様に同意した。全員の視線が再びミユウに集中した。
「嫌ですわ、このわたくしを男だなんて……」
言われてみると女にしては骨格ががっちりしている気がして来た。声も中性的だが、無理をして高い声を出しているような……? 男のシンボルである
「嫌ですわ、皆さんたら……」
じ~。
「………………チッ」
ミユウは舌打ちをした。
「童貞は騙せるんだがな。女慣れした男の目は誤魔化せないか」
ミユウの口から出た野太い声に驚いて、モリヤがひゃあと情けない声を上げた。
「男? 本当に男!? 私より綺麗なのに?」
アオイが身も蓋もない感想を漏らして呆然としていた。素直な人らしい。
「俺は男に迫られていたのか……」
貞操の危機だったかもしれないミズキが青い顔をしていた。
しかしトモハルは感心したように言った。
「初見で見抜くとは素晴らしいです連隊長! 普段は女性を避けられているので、失礼ながら異性に興味が無いのかと思っておりました」
「あん?
「ばっ、よせ
トモハルが不思議そうに聞き返した。
「連隊長は硬派なお方です。違う時が有ったのですか?」
マサオミ様は不敵な笑みを見せて暴露した。
「この人はな、昔はもっとチャラチャラしていたんだ。髪も長かったしな。女達に必要以上に愛想が良くて、
「青眼の貴公子……」
とても意外だった。渋い大人の男性だと思っていたイサハヤ殿が、若い頃はチャラ男だったなんて。
俺の引き気味の視線を感じ取ったイサハヤ殿は大声で弁明した。
「エナミ違う! あの頃の私は別人格だ! 若気の至りだ! 今は違うんだからな!!」
すかさずマサオミ様がトドメを入れた。
「あんたノリノリだったじゃねーか。あの自然な流し目は、
「ぐっ……」
イサハヤ殿にとって黒歴史を突かれたらしい。完全に流星のマサオミの仕返しだな。
俺はどちらも大人げないなと思った。
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