分隊長と中隊長(一)
その負の感情は、先日隊に合流した
(まさか
トモハルは連日、敬愛する
(楽しそうね。いい気なものね。あなたの命令で私達は散々な目に遭ったというのに)
アオイは自分に与えられた初めての部隊のことを忘れられなかった。思い出しては後悔し、そして次に怒りの感情が湧いて出て来て彼女を苦しめた。
槍使い四名と射手一名で結成されたアオイの分隊は、運命のあの日、トモハルが指揮する中隊に組み込まれて、カザシロ平原に築いた砦の周辺を巡回していた。
(あそこで
平原には赤い軍服を着た
トモハルは
結果、この判断は大きな誤りとなった。
見付けた小隊は餌だった。わざと
トモハルは狭い空間である森に、
木や岩の陰から飛び出してくる
アオイの分隊とて例外ではなかった。
密集戦となった為に矢を放つことができなくなった射手が、まずアオイの目の前で斬られた。
残った部下の槍使い三名が隊長のアオイを守るように囲みの布陣を取ったが、すぐに一名が数人の剣士によって身体を斬り刻まれた。
「退却ッ! 一旦森の外まで退きなさい!!」
この時、思わずアオイは叫んでいた。
「しかし分隊長、
敵前逃亡は重罪だ。最悪死刑も有り得る。部下のモリヤはそれを危惧してアオイを止めたのだが、彼女は更に叫んだ。これ以上部下を無駄死にさせたくなかったのだ。
「責任なら私が取るわ! 命令よ、森の外まで退きなさい!!」
分隊長による再度の命令に部下は従った。アオイを挟み三人で森の出口を目指して全速力で駆けた。
しかしあと少しで森を抜けられるという所で、アオイの右側を走っていた部下が、追い掛けて来た
「このおぉぉーっ!!」
部下が倒れ込むよりも先に、アオイの槍が攻撃して来た剣士の腹を貫いた。ぐふっと血を吐き追っ手は絶命した。
「しっかり、しっかりしなさいッ!」
斬られた部下を担ごうとしたアオイを止めたのは、またモリヤだった。
「そいつはもう駄目です、その出血は止められない。手を離して走って!」
「でも、まだ生きてる……」
「もう助からないんです!!」
そう怒鳴ったモリヤの背後にも、新たな追っ手が近付いていた。
「モリヤ、後ろ!!」
「!? あぁっ……!」
回避行動は間に合わなかった。モリヤは背中を斬られてその場に倒れた。
「モリヤ!!」
「……へぇ、女か。上玉じゃないか」
モリヤを斬った兵士はアオイを見て、
「なぁ姉ちゃん、俺達の捕虜になるかい? みんなで順繰りに可愛がってやるぜ?」
アオイの怒りに火が付いた。ゲス野郎が、こんな奴にモリヤは……!
アオイは槍を両手で握り
ズグッ。
肉が裂ける鈍い音がして、アオイの左肩に激痛が走った。相手の刀が振り下ろされたのだ。
それでもアオイは勢いを止めず、彼女の槍は
「がッ……」
彼にはまだ息が有った。
「生き抜くわよ、絶対に生きて帰るんだから……!」
アオイはモリヤを半ば引きずるように移動した。一歩進む度に振動が伝わり斬られた左肩が強く痛んだ。それでも歩みを止める訳にはいかなかった。
自分は隊長。部下を救えるのは自分しか居ない。その信念がアオイの脚を動かした。
そしてついに、アオイとモリヤは森の外へ脱出を果たした。
そこには青い軍服を着た
「モリヤを……、彼を助けて……」
それだけ告げて、アオイは意識を失った。
次に目が覚めた時、彼女は地獄の第一階層に居た。
アオイを抱きしめながら泣くモリヤと共に。
最初は何が起きているのか解らなかった。ただただモリヤが生きていることが嬉しくて、アオイもモリヤにしがみ付いて、二人でしばらくワンワン泣いていた。
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