想うところ(三)

 腕組みをしたマサオミ様に向けて、


「……最低でも四人なら、確実に増やせる方法が有るよ」


 突然マヒトが発言した。マサオミ様が興味を持った。


「ほう、どうするんだ?」

州央スオウの隊と合流するんだよ。ランと遊んでやった時に聞いたけど、あっちには真木マキ連隊長、女と男が一人ずつ、後から前髪が長い奴も向かったそうじゃねーか」

州央スオウか、そいつは……」


 マサオミ様は顎に手を当てて考え込んだ。州央スオウと組むことは考えていなかったようだ。それは俺もだ。もうイサハヤ殿に会うことは無いと思っていた。


真木マキイサハヤ……。そうか、真木マキさんとね……」


 マサオミ様の唇の端が僅かに上がった。笑ったのか?


「ヨロイのオジちゃん、いいひと」


 俺にしがみ付いていたランがもぞもぞ動きながら言った。


「さいしょこわかったけど、いいひと。またあいたい」

「いい人……か。はん、大人と違って子供は、素直に物事の本質を見れるもんだな」


 マサオミ様は目を細めて今度は完全に笑った。何故かとても嬉しそうだった。


「いいだろう、真木マキさんと俺が話してみるぜ。それで上手くいかなそうだったらまた別れりゃいいんだ。まずは試す、そこからだな」


 笑顔のマサオミ様は俺達の顔を見た。


「おまえさん達はどうだ? やはり抵抗が有るか?」

「私はマサオミ様の決定に従います」


 ミズキが即決し、セイヤも続いた。


「俺も。トモハルって奴はまだちょっと信用できませんが、州央スオウにもマヒトみたいに信じられる奴が居るって判ったので」


 名指しされたマヒトがあわあわと口籠くちごもった。


「お、俺をし、信じるのか!?」

「だっておまえ、二回も俺達のピンチを救ってくれたじゃん。この隊にも馴染んでるし」

「うお、そ、そうなのか……」

「エナミ、おまえさんの意見は?」


 俺は答えに困った。


「イサハヤ殿が善い方だということは存じ上げています。できることなら協力し合いたいです。ですが、イサハヤ殿が俺を拒絶するかもしれません」

「おまえさんが真木マキさんを討った射手だからか?」


 ハッキリ言われるとキツイな……。


「その通りです。俺はイサハヤ殿に何も話せていませんが、後で合流したトモハルさんの口から、俺が仇であると伝わっているはずです」

「おまえさんだって、そのトモハルに討たれているじゃないか」

「そうだよ、だからアイコだよ、気にすんな!」

「でも俺、親切にして頂いたのに何も言わないまま別れたんです。まるで騙したみたいで……」

「だったら尚のこと、真木マキさんに会って一度謝っておけ。あの人は器の大きい人だ、たぶん許してくれると思うぜ?」


 ? マサオミ様はイサハヤ殿の人柄について詳しいのだろうか? カザシロの戦いで対峙する前に、軍事演習で一度会っていたと聞いたが……。


「イサハヤ殿に謝る……」


 そうだな。みんなの生存率を上げる為には、州央スオウとの共闘が必要なんだ。気まずさから逃げている場合じゃない。


「そうします。みんなで州央スオウの人達に会いに行きましょう」

「よし、決まりだな。今日はもうすぐ日が暮れるから、明日の朝一で動くぞ。みんな早寝をしておけ」

「はい!」


 俺達が返事をしたところで、案内鳥が帰って来た。すっかりランの傍が奴の定位置になっていた。


「よお、お疲れさん。新しい魂はどうだった?」

『うん……』


 マサオミ様の問い掛けに、鳥は重い口調で答えた。


『落ちて来た魂は州央スオウの兵士だったよ。次々に落ちて来て、全部で九人にもなった』

「九人とはすげぇな。そいつらに真木マキさん達のことを教えてやったのか?」

『いや、聞かれなかったから黙ってた』


 黙ってた? わざと?


「何でだよ。州中スオウの戦力を一気に上げる絶好の機会だったのに。あ、ひょっとしておまえ、桜里オウリの俺達に気を遣ったのか?」

『いや、彼らがあまりに異質だったから……』


 鳥はランの方を窺った。嫌な予感がした俺は、ランに声を掛けた。


「ラン、また難しい話になるからヨモギとあっちで遊んでおいで」

「むずかしいおはなしキライ~」


 ランはとてとて歩いてヨモギの傍へ行った。賢いヨモギは遠くへは行かず、しかし会話の声が聞こえない程度の距離へランを連れて行った。

 それを確認してから案内鳥は見て来たことを語った。


『彼ら、仲間同士で殺し合いを始めたんだよ。それでやられた四人分の魂が下の階層へ落ちた』

「え……」


 おいおい。同士討ちとは穏やかじゃないぞ。


「何でそんなことに?」

『判らない。ただ、殺される寸前に、相手に向かって裏切り者とか叫んでいた』

「裏切り者ねぇ……」


 マサオミ様は何か心当たりが有るのか、あまり驚いていなかった。


「やだ、怖い……」


 トオコが眉をひそめた。向こうでヨモギと遊んでいるランには聞こえていないよな?


『だから僕、キミ達のことを紹介する前に、新しい魂をもう少し観察するべきだと思ったんだ』


 鳥は鳥なりに、俺達のことを心配してくれたようだ。確かに同士討ちをするような物騒な奴らに、こちらの情報を渡してほしくない。

 しかしいったい、州央スオウの兵士の間で何が起きているのだろうか?

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