第十二章

......


「...イ!スイ!起きて!!」

ハヤテの焦るような声が聞こえる。

全身が痛い。特に頭が。


「ハヤテ...?」

はっきりとしない頭の中で声の主に問いかける。

どうやらここは、どこかの森の中のようだった。


「よかった...起きてくれた...」

ハヤテのホッとしたような声を聴いた刹那、頭にかかった靄が晴れた。


「水龍は!?みんなは大丈夫なの!?」

僕は体を起こしながら、ハヤテに問いかける。


「今はホムラとダイチの二人が相手してくれてるよ。でも、彼らも連戦だからどれだけ持つかはわかんない...」

どうやら彼らは、火と土の龍を鎮めて即座にハヤテの助けを請けたらしい。


「なら急いで戻らないと!ハヤテ、行こう!」

「待って、スイ」

急いで戻ろうとする僕を、ハヤテが静かに制する。


「今行っても、さっきの二の舞になりかねないよ。ホムラちゃんとの時も、似たようなことがあったって聞いたし。」


「ねぇスイ、キミにいったい何があったの?」

ハヤテの言葉に対し、僕は目を伏せながらポツリと語った。


「昔、僕は人を殺しちゃったんだ。」

ハヤテの息をのむ声が聞こえる。


「小さいころ、近所の女の子とよく一緒に遊んでてさ、色んなことして遊んだよ。

その日は川遊びしてた。」

次の言葉がなかなか出ず、何度も唾を飲み込んだ。


「彼女が一人で水と戯れてた時、足を滑らせて溺れちゃったんだ。

だけど僕は、助けられなかった。」


「力は使えたはずのに、天才水使いだなんていわれてたのに。咄嗟に力を使えなかった。僕が殺したんだ。救えるはずの彼女を救うことができなかったんだ。」

ゆっくり、自分に言い聞かせるように語りきる。


「スイ、それはキミが殺したんじゃないよ。」

ハヤテが静かにポツリとつぶやいた。


「確かにキミは彼女を助けられなかった。だけどキミはまだ子供。

スイが全部を背負い込まなくたっていいんだよ。

大事なのは悔いることじゃない。忘れないことなんだから。」

僕の目をまっすぐ見ながら、ハヤテが語り掛けてくる。


「忘れないで、今の君には世界を救える力がある。たとえ過去に救えなかったとしても、今はもっと多くのものを救える。君にはその力があるんだ。」


忘れないこと。

その言葉が心の奥に刺さる。



後悔しても、彼女はもう戻ってこない。

僕は一生彼女のことは忘れられないと思う。


でも、忘れる必要なんてない。

彼女を忘れなくても、今いる人たちを救うことはできる。

目の前で大事な人を失う、僕みたいな経験を背負う人を減らすことはできる。


もしかしたら、その一言が僕にとって必要だったのかもしれない。


ごめんね。ハルちゃん。ありがとう。

心の中で、今は亡き友人に感謝を告げる。



「...ありがとう、ハヤテ。」

伏せた目を開けながら、ハヤテに目を合わせる。



「もう大丈夫。行こう、二人の元へ。」

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