第七章



「痛てて...やっばいね、威力...」

 羽織っていた服の裾がすこし焦げている。

 頬がひりつく。軽度だけど火傷っぽい。


「あら、勝ったと思ったのだけど。まさか耐えるとはね。」

「ギリギリだよ、これでもダメージは負ってるんだ。」

 そう、はにかみながら少しよろける。



 早く、何とかしないと。このままじゃじいちゃんに託されたのに。


 考えろ、頭を回せ。どうにかして膝をつかせれば勝ちなんだ。


 どうすれば、どんな手を使えば勝てる。


 呼吸も二の次に、懸命に思考を巡らせる。



 周りの音が遠のき、自分の心拍だけが鳴り響く。




 刹那、懐かしい感触が戻ってきた。

 力に満ちるような、酔いそうになるくらいの全能感。


 今ならきっと。


「...やってみるか。」

 そう、つぶやきながらほむらとの距離を整える。

 チャンスは一度きり。この一撃で認めさせてみせる。


「さすがは天才クンといったところかしら。でも、私とて容赦はしないわ。」

 そういい、再び火球を作り始めるホムラ。


 その姿を見て、僕も水球を作り始める。

 火球より大きく、強く。


「...ようやく本気を出したのかしら?能力の真正面からのぶつかり合いだなんて光栄だわ。」

 そう、軽口を投げてくるホムラを見据えながらタイミングをうかがう。


「目には目を、歯には歯を。球には球ってね。押し勝ってみせるよ。」


 途端、ホムラの口元に笑みが広がった。

「じゃあ、勝負と行きましょうか!」

 そういうと、作り上げた火球を飛ばしてきた。


 それとほぼ同時に僕も水球をホムラへ飛ばす。


 2つの力がぶつかり合い、そして弾けた。


 辺りには霧が立ち込め、互いの姿を視認できない。


「....晴れるまでは迂闊に動かないほうがいいかしr」


 そう、ホムラが言いかけた刹那、面前にスイが現れた。


「なっ」

 そう言い、面食らうホムラに僕はすかさず水で作った縄を絡ませ、思い切り引く。


 ホムラの体勢が崩れ、膝を付けた。


 勝った。


 ギリギリだけど、何とか勝てた。


「...私の負けね。残念だわ。」

 そう、ホムラが少し悔しそうに言う。


「でもホムラも強かったよ、手合わせありがとう」

 そういい、ハヤテに霧を払ってもらおうと一歩、踏み出した。


 途端、過去の記憶がよみがえる。


 小さかった頃の、忌まわしき記憶。


 僕が、親友だった人を殺してしまった記憶。


 嗚咽が込み上げ、頭痛がする。

 もう立っていられない。


 思わず声が漏れる。



 僕はその場に倒れこみ、気を失った。







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