第六章

「ルールは一対一。お互いの能力を最大限活用して、相手を地に付けたら決着よ。」

「ハヤテちゃん、あなたには立会人を頼みたいのだけど、いいかしら?」


「ちょ、ちょっと待ってよ。なんで僕が決闘なんかしなきゃいけないのさ」


「私は認めた相手じゃないと力を貸さないの。だから、私の仲間足りうることを証明して」

僕は薄くため息をついた。

これが火使い流なのか、はたまた彼女が血気盛んなだけなのか...


「それと「水使いのスイ」なんて稀代の天才使い手さんじゃない。是非とも手合わせお願いしたいわ。」


なぜ僕なのか。その答えに案外あっさりたどり着けてしまった。

噂の一人歩きってやつなのか、どこに行ってもその呼び方をされてしまう。


僕にその呼びは不相応だというのに。


「どうする?これ」

ぼくはハヤテのほうに顔を向け、そう尋ねた。


「...でも彼女多分引いてくれないよね。」

「火使いの力も不可欠だから...ここはスイ、お願いできない?」

こうなるのか、結局。


でも、僕らがここで引けば任務は果たせない。

今だけは自分を殺せ。過去のトラウマは忘れろ。

個人よりも世界を見るんだ。


僕はスゥっと息を吸った。


「わかった、頑張ってみるよ。」

そう、ハヤテに告げると僕はホムラに正対した。


「いいよ、乗ってあげる。」

「感謝するわ。それじゃあさっそく始めるわよ。」


こうして、僕とホムラの決闘が始まった。



....

「スイ!準備はいいかしら?」

軽く跳ねながらホムラが問いかけてくる。


「うん、始めようか。」

僕はできるだけ声色を変えずに、淡々と返した。


本当のことを言うと、怖い。

力を使うこと自体かなりのブランクがあるし、ましてやこんな戦闘なんてしたこともない。

それに彼女の力も未知数だ。


震える声を抑えながら、ハヤテに呼び掛けた。

「ハヤテ、よろしくね」


「うん!任された!」

「それでは、試合開始!」


...刹那、ホムラが火球を飛ばしてきた。

すんでのところで水で消火しながら、ホムラに叫びかける

「容赦ないね?」

「当然でしょ、手を抜くほうが失礼よ。」

そういうとホムラは手を合わせ始めた。


「せっかくだから早速全力で行かせてもらうわね。どう切り抜けるかしら、稀代の天才クン?」

ホムラに目を向けるとかなりの大きさの火球を頭上に生成していた。

「はは...本気出しすぎじゃない...?」


おそらくさっきみたいな要領じゃ対応できないだろう。

正直、今の僕に攻撃する勇気なんてない。


守りに徹して、何とか認めさせる。そうやって勝つしかない。


僕は水を凝縮させながら次の一手をうかがっていた。


初めてほかの使い手の力なんて浴びたな...ハヤテのもすごかったけど、ホムラの力も相当だ。

そんなことをぼんやり考えていたが


「スイ!前!」

ハヤテの叫び声で我に返る。


空気が熱い。

ホムラのほうに目を向けると、さっきの火球が目の前まで迫っていた。


僕はとっさに集めた水を細くまとめ、槍のようにして火球にぶつけた。


だが、間に合わなかった。




勢いこそ削げたものの、左半身に衝撃が走った。


気付くと僕は、後方に吹っ飛ばされていた。

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