第四章

夜が、明けた。


昨日と変わらない、穏やかな朝。


だが、昨日のような晴れ晴れしさはどこにもなかった。


いつものように髪を束ね、階段を下る。キッチンに向かうと、ハヤテが冷蔵庫とにらめっこしていた。


「おはよう、ハヤテ。よく寝れた?」

後ろから声をかけるとハヤテはビクッと体を震わせ、後ろに振り向いた。


「おはよ~。寝れた寝れた。元気ばっちりだよっ!」

「それで...うちの冷蔵庫に何か用?」

すこしいたずらっぽく、投げかける。


「ホントは朝ごはん作っておきたかったんだけど...自信なくて迷ってたらさ...あはは...」

うつむき気味にハヤテが答える。


「なら手伝ってくれない?僕も一人で作るってなると時間かかるしさ。」

「え...うん!もちろん!」

手伝ってくれようとする心を無礙にはしたくない。


そうして僕らは、二人で朝食づくりにいそしんだ。

教えながらだったから普段よりも時間こそかかったものの、中々楽しかった。



「そろそろおじいちゃん呼んでくるね。火の番、頼んだよ。」

ハヤテに料理の管理を任せ、おじいちゃんを起こしに行った。


いつもならもう起きてる時間なのにな。そんな風に思いながら、おじいちゃんの部屋を開ける。


「おじいちゃーん、朝だよー」

そう呼びながらおじいちゃんの顔をうかがった。


水。一言で形容するならば水そのものだった。

肌が透けるようにして、朝日に輝いている。


「案ずるなスイ...ただの能力の暴走じゃ...」

おじいちゃんがすこしあえぎながら、話しかけてくる。


能力の暴走。定期的に僕ら使い手に発現する、病気みたいなもの。

重さはまちまちだが、僕ら水使いの症状としては、肌が透け、水に浸かったような風に見えるものになっている。


この症状は、風邪みたいなもので、安静にしていれば快方に向かう。

僕らにとってはよくあるものだった。


だが、タイミングが最悪だった。

まさかこんな時に発現するとは。


この症状が発言したが最後、向こう1か月は能力を奮えない。

この状態で力を使うと。体内に浸透した力が暴走し、最悪、死に至る。


これではおじいちゃんを行かせることはできない。


ならば、僕しかないのか。


「すまぬスイ...お前の気持ちを汲み取ってやりたかったんじゃが...」

苦虫を噛み潰したような顔で、途切れ途切れ、おじいちゃんが語り掛ける。


胸がキュウっと苦しくなる。

行きたくない。

でも僕が行かなきゃいけない。

おじいちゃんに、これ以上迷惑はかけられない。


大きく深呼吸し、おじいちゃんを見据える。


「いいよ、僕が行く。僕が封印の任を果たす。」


するとおじいちゃんは奮える手を差し出して来た。

「そうか...ハヤテちゃんと仲良くいくんじゃよ...」

「世界を...みんなを頼んだぞ...」


手を握ると、おじいちゃんの手からフッと力が抜けた。

どうやら、寝てしまったようだ。


「おやすみ、おじいちゃん。あとは任せて。」


ドアを開けて、リビングに入るとハヤテが料理を並べていた。

「ハヤテ、ご飯食べたら出発するよ」

「え?出発ってどこに?」

「決まってるでしょ、ほかの使い手に会いにだよ」


一瞬、ハヤテがポカンとした表情を浮かべた。

だが、すぐに笑顔になって飛び跳ねるようにして振り向いた。

「うん!行こう!!一緒に!!」


....

簡単なカバンに、必要そうなものだけを詰め、家を出る。


「行くよ!スイ!準備はいい?」

ハヤテが風を起こす。僕らはこれに乗って、ほかの使い手のもとに向かう。


「うん、行こう。使命を果たしに。」

そして家に正対して、おじいちゃんにも届くように告げた。


「おじいちゃん。行ってきます。」

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