第三章
「...その役目はさ、『他属性の使い手が4人そろっていればいい』んだよね?」
なるべく真意を悟られないように、声色を落としながらハヤテに投げかける。
するとハヤテは不思議そうに首を傾げた。
「そうだよ~?だからスイに声をかけたんだよ~」
....良かった。
「...なら僕じゃなくて、おじいちゃんと行ってくれ。」
突き放すように、言い捨てる。
僕は正直、もう誰かのために力を使いたくない。
使い手としての力も血筋も肩書も捨てられない。生きている限り、決して捨てられやしない。
ならばせめて、力を使わないでいたい。
「...スイは何を言ってるの...?」
ハヤテの顔に、困惑の色が広がる。
「どうして断るの....? 一緒に行こうよ...」
すこし、心が痛む。
あんなのはエゴだってわかってる。だけど、おじいちゃんという選択肢があるのならば、それを掴ませてほしい。
「ごめん、ハヤテ。キミの言葉には応えられない。」
「僕はもう、自分の力を封印してしまった。だからそんな僕よりもおじいちゃんのほうがきっと、キミたちの役に立ってくれるよ。」
ハヤテの顔の困惑の色が一層強まり、目がすこし潤んでいた。
「なんで...そんなこと...」
「わかった。わしが行こう。」
ハヤテの言葉を遮るようにして、おじいちゃんが声をあげる。
「わしも水使いの端くれじゃ。老いた身ではあるが役目くらいは果たせるじゃろう。」
「じゃがスイ、本当にそれでいいんじゃな?」
優しげな目を向けながら、おじいちゃんが問いかけてくる。
「うん、ありがとうおじいちゃん。」
刹那、ハヤテに目を向けると少し不満そうな顔を浮かべて膨れていた。
だが、少しすると諦めたようにハァ、と溜息をついた
「わかった。スイに何があったかは分からないけれど、キミのおじいちゃんと一緒に行く。」
そしておじいちゃんのほうに向きなおり、手を差し出した。
「よろしくお願いします、おじい様。」
...
その日はもう、日も傾きかけていたのでハヤテには泊まって行ってもらうことにした。
久方ぶりの客人というわけで、夕食も少しばかり気合を入れて用意した。
「んん~~!!!めっちゃおいしい!!」
「えっ、スイってこんなおいしいご飯作れるの??やば!!」
どうやらお口にあったようで、ハヤテが目をキラキラ輝かせながら賛美の言葉を飛ばしてくる。
「そりゃどーもです」
そんなハヤテに僕は苦笑を浮かべながら、追加の大皿を運ぶ。
かなり山盛りに持ったつもりだったのに、ものの数秒で消えてしまった。
「わふぁふぃろうりふぇふぃふぁいふぁら」
「口に入れてしゃべんなよ、詰まるよ。」
ハヤテの言葉を遮るようにして忠告する。
「ふぉんなふぉとないmゴホッ」
あーあー、言わんこっちゃない。
料理を喉に詰めたハヤテに、おじいちゃんが出してくれた水を差し出す。
「ほら、これ飲みな?」
ごくっごくっ
ハヤテがコップの水を一気に飲み干す。
「ぷはーーーー!生き返った~!」
「だから言ったじゃん...」
あきれた目を向けながらハヤテに声をかける
「あははー...ごめんごめん、美味しくてさぁ...」
「ったく...まぁいいや、それで、さっき何を言いかけたの?」
「え?あ~、私料理できないからさ、どうしてこんなに料理できるのかな~って」
「あ~、まぁある意味しょうがなかったというか..」
「ほら、おじいちゃんと二人で暮らしてるから、どうしても家事分担しなきゃでさ」
僕は後頭部を掻きながらぽつりと答える。
「すごいよ~それで作れるようになっちゃうスイはやっぱり天才だね!」
「あはは、ありがと」
僕は少しはにかみながら笑みを返した。
今夜は、いい夜だった。
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