第二章


「私の名前はハヤテ!君は…スイ!だったよね!」


突然目の前に現れた少女は、自らの名前を名乗ると、僕の名前を言い当てた。


正直、全くもって意味が分からなかった。


なぜ、彼女は急に現れたのか。なぜ、彼女が現れる前に風が吹いたのか。

そしてなぜ、彼女は僕の名を知り、天才などと呼んだのか。



フリーズ寸前の頭で懸命に思考をめぐらして、なんとか声を出した。


「そうだけど、なんで僕の名前を?」

一瞬キョトンとして、首を傾げる彼女。刹那、顔が真っ赤に染まっていく


「わーーーー!!ごめん!!何にも説明してなかったね。これじゃあただの怪しい人じゃん…」

「でも安心して!!私何もあやしくないから!」

最初は紅に染まった顔であたふたしていたのに、しまいにはドヤ顔で自分のことを肯定している。


いや、怪しいだろ。そんな風とともに現れた少女なんて。ましてや自分のコト怪しくないなんて言う奴の事を無条件で信じるほうが難しいんじゃないか?


喉元まで出かかったそんなツッコミを無理やり飲み込み、ハヤテと名乗る少女に問いかけた。


「それで...君は一体何者なの?」


「ごめんごめん、改めて自己紹介するね。私はハヤテ!キミと一緒で使い手の一人、「風使い」の血を引く16歳だよ~」

少女は軽快にそう語った。


「風...使い...?」

正直、自分のほかに3属性の使い手の末裔がいることは予感していた。

だが、出会ったのは初めてで、響きだけで少し圧倒されてしまった。


「せっかく私が自己紹介したんだし、キミの話も聞きたいな~?」

いたずらっ子みたいな、そんな声で僕は我に返った。


「僕の名はスイ。ご存知の通り、「水使い」の末裔だ。歳は同じ16歳。よろしく。」

端的に自己紹介を交わすと、再び彼女が目を輝かせてきた


「ね!キミ、天才クンだよね!私知ってるよ!師匠が言ってたもん!」

「キミの師匠が僕のことを...?」

「そ!今代の水使いは歴代最強だって!」


歴代最強。

そんな呼ばれ方をするとは思っていなかった。


「そんな風に呼ばれているのか...でも、それももう過去の話だよ。」

すると彼女は怪訝な顔をして、首を傾げた


「どーして?今も昔も力は変わらないんじゃないの?」

僕は目を伏せながら首を振った。


「いや、僕はもう昔のようには力を使わない。使えないんだ。」

「そっか...」

彼女は何た言いたげな表情を浮かべながら、こちらを見つめてきた。


だが、すぐに気を取り直して

「そんなことより!キミに話があったんだ!」

と、再び僕の手を握りながら語りかけてきた。


「行くよ!世界の均衡を守りに!」



……


「はぁ~!おいしい~!」

マグカップを抱えながら、ハヤテが声を声を上げる「ねぇスイ!これなんて言うお茶なの?」


すると裏戸からおじいちゃんが顔を出した。

「それはの~自家製ハーブティーじゃ!ウチの裏の庭で採れるミントを使っとるんじゃよ~」


おじいちゃんも、お客さんが来てちょっとテンション上がっている気がする。


「え~!すごいですね!」

ハヤテのハーブティー賛美を皮切りに、二人での談笑が始まる。


ここに至った経緯はこうだ。


いきなり「世界の均衡」なんて話をされた僕は、

立ち話もなんだし、ということで一度家に招くことにした。


そしておじいちゃんの要望で、ウチの倉庫に残る過去の文献を引っ張り出してきたところで、今に至る。


「そうじゃろそうじゃろ〜」

「はい!すごいです!!」

全くもってなんの話かわからない。回想に耽ってる間に何を話してたんだろうか。


「…ごほん」

わざとらしく咳払いする。


…ハヤテがアッ、とでも言いたげな表情をこっちに向けてきた。

どうやら意図が伝わったようだった。


「っと、そんなことはさておきですね。」

そう言うと、一呼吸おいて真面目な顔になる。


「スイ、キミには「使い手」の血を引くものとして果たさなければならない使命があります。」

「封印の任、です。」

封印の任。一応、聞いたことはある。

確か伝承書の方にそんな記述があったはず。


「3000年前、私たちのご先祖さまがこの国を救ったと言う伝説はご存じですよね。」

僕は肯定の意味を込めて、静かに頷く。

この国に暮らすものなら誰もが知っている伝説。最近では御伽噺にもなっていたはず。


僕の反応を見ながら、ハヤテは言葉を続ける。

「よかったです。しかし、伝説には続きがありました。私たち、使い手の子孫に使命を託す旨の続きが。」

「「1000年に一度、その力を以てして再び化身の封印を成さん。」この言葉が意味する通り、私たち使い手の末裔は時が来ればその役目を果たさなければなりません。」


「そして、前回の封印から数えて1000年。その時が今なのです。」

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