第一章

「...ぅうん...」

ベッドの上で呻く。


窓から差し込んでくる木漏れ日に照らされ、目を覚ます。

昨日までの大雨が嘘かのように晴れ渡った空。

かすかに聞こえる小鳥のさえずり。

やはり森の朝はいい。何年暮らしていてもその気持ちだけは変わらない。


「うん、今日もいい朝だ。」

そう呟き、大きく伸びをする。

そして、長めの髪を束ねながら階段を駆け下りる。


...


『トントントン』

包丁の音が台所に軽快に響く。

朝食づくりはもう日課になってしまった。

最初は包丁の握り方すら知らなかったのに、慣れというものは怖いものだ。


スープを煮込んでいると、不意に後ろのドアが開いた。


「おぉ~、おはよう。今日のご飯は何じゃ?」

すこし眠気が残ったような声。僕のおじいちゃんだ。


「今日はいつものだよ~もうできるから早く顔洗ってきな~」

そう告げると、最後の仕上げに移る。

煮込んだスープにスプーン1杯のヨーグルトを混ぜる、これがお母さんの隠し味だ。


「いただきます。」

戻ってきたおじいちゃんと共に、食卓を囲む。


今日はフランスパンと鶏肉のソテーとスープのラインナップ。

特に何もない日はこの組み合わせなので僕らは「いつもの」で通している。


「相変わらずスイのご飯はうまいのぉ」

笑顔で告げられ、思わず笑みがこぼれる。


「お母さんが料理上手だったから、血なのかな~」


僕は10年前から、この森の中の一軒家でおじいちゃんと二人で暮らしている。

父と母はここにはいない。二人は遠くの国で働いている。おじいちゃん曰く、河川管理の長官になったとかなってないとか。


僕らは、「水使い」の血を引く家系だ。


なんでも、遠いご先祖様は3000年前にこの国を救った英雄の1人「水使い」らしい。


「水使い」と言ってもその力の発現具合は世代によってまちまちだ。

おじいちゃんは手から水を発したり練り上げたりとまさに「使い」っぽいような力を持っているが、父さんは水を操る事ができない。

その代わり、水の声が聞こえる「遣い」のような力を宿している。お陰で治水において右に並ぶものなし、とも名高い。まぁ長官になるのも納得だろう。


かく言う僕は、「使い」としての力を継承していた。だが力がかなり強大らしく、海すらも自由に操る事ができた。

お陰で昔は「稀代の天才」だなんて持ち上げられたこともあったが、今ではそんな呼び方をする人も居ないだろう。



「ごちそうさまでした」

洗い物もそこそこに、散歩に出かけた。


昨夜まで続いた雨のお陰で道こそぬかるんでいたものの、草花の先には露がついており、日の光に照らされて輝いていた。


そうして森を抜け、川に出る。

小屋の近くを流れる小さな清流。お気に入りの場所だった。


周りにはいつも動物たちがいて、彼らを眺める事が娯楽の一つだった。だが、降り続いた大雨のせいか今日は誰も現れない。


諦めて帰ろうとした矢先、突然突風が吹き荒れた。

木々が揺れ、自分の周りを風が覆い尽くした。


風の弱まりを感じ、目をあけると目の前に少女がいた。


少し華奢で、頭に風車の髪飾りをつけた至って普通の女の子。だけどもその子からはなんとなく、自分に似たようなオーラを感じていた。


彼女に見惚れていると、彼女は目を輝かせながらパッと僕の手をとり

こう、告げた。


「やっと会えた!!天才水使い!!」




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