第2話 斬新 #とは(現代/糸、輪ゴム、パソコン)
これはまた斬新な。
時期外れの異動を言い渡されたのは1週間前のこと。他部署の欠員補充と自部署の人員処分を兼ねての異動かと思いきや、繁忙期を避けて大々的な人員配置変更を行ったためだという。おかげさまで思ったよりも同時期の異動者は多く、一通りの部署を全員でぐるぐると回って挨拶を済ませて私物を手に異動先の部署に足を踏み入れたのは、辞令をもらってからたっぷり2時間後だった。そもそも全員が辞令をもらうのに30分ほどかかっていたような気もするが、眠気のもたらした錯覚と思うことにしたい。
さて、そうして冒頭に戻る。斬新なのだ。いや、就職して2年と少し。3年に満たない社会人経験で斬新も何もないのかもしれないが、しかし、斬新なのだ。大事なことなので何度でも言おう。斬新だ。
座席やパソコンの配置ルールが部署によって異なることは理解しているし、異動が公になった時点で引継ぎのために出入りした際にも教わっている。しかし、こんな斬新なことになっていたとは。これまで出入りしたときに一切気づかなかった自分の目にはとても大きな節穴が空いているらしい。
さてこれはどうしたものか。座席に荷物を置いて、トイレに行くついでを装って周囲の席を見てみれば、どこも似たり寄ったり。きっと自分以外にも他部署から異動してきた人や、パートやアルバイト、派遣社員だってこれまで何人もいただろうに、誰も気にならなかったのだろうか。
いや、そうではないのだろう。恐らく、そう、あまりにも面倒くさいと思ってしまったのではないだろうか。それほどまでに斬新で、自分の知っている「普通」の状態にするには手間がかかりそうだった。
そもそもなぜここまで斬新な、むしろ面妖な状態になってしまっているのか。パソコンは数年単位のリース契約と聞いているから、前回の契約更新時にいた人の意向なのだろうか。いや、それにしては元いた部署とはあまりにもかけ離れているし。悶々としているうちにとっくに用は済んでいて、ぶらんと垂れ下がったそれを放置して考え込む姿に、トイレを出入りした面々が不可思議なものを見たような表情をしていたことには気づかなかった。
まぁ、どうせ3年もすればこの部署からいなくなるんだし、別にこのままでも困らないっちゃ困らないんだよな。気づいたときにちょっとぎょっとするくらいで。だからまぁ、無視してもいいか。害はないものな。不通に使ってるときには目に入らないんだし。
これまでいた人たちもきっと同じような流れで同じような結論に達したのだろうと思いながら結論付け、戻った自席でパソコンに電源を入れる。背面に這うコードは、しつけ糸と輪ゴムが複雑に絡まり合った紐でゆるく束ねられていた。
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初出: https://www.magnet-novels.com/novels/56330 2018/11/16
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