第62話 要望を受け入れてみた
俺は改めて掲示板に貼られた依頼を吟味し始めた。
少し見ただけで、自ずと候補は絞られてくる。
(無難に魔物の素材や薬草を集めるのがいいな)
闇魔術の収納があるため、荷物が多くなることは気にしなくてもいい。
常に身軽でいられるのは何気に大きな強みだろう。
現在も俺とビビの二人分の持ち物を入れてある。
納品依頼はあまり報酬が高くないが、堅実に稼げるのが利点だ。
落ち着きたい今はちょうどいいと思う。
数枚の用紙を選んでいると、職員が別の話題を振ってきた。
「ところで魔術の鍛練は欠かしていませんか」
「無論だ。毎日やっている」
「さすが地味なことが得意っすね」
「余計なお世話だ」
魔術の鍛練は積み重ねることで真価を発揮する。
急速に成長することを望めば、却って停滞するものらしい。
その主軸に精神の形が大きく影響するからだろう。
焦る気持ちが修練の練度を下げるのだ。
決闘後に目覚めてからも、俺とビビは瞑想や魔術書による座学を欠かしていない。
地道な学びはやがて実を結ぶ。
聖騎士との戦いでそれを実感できたのだ。
今後のためにもやれることは少しでも頑張りたい。
そう思って鍛練を続けている。
特にビビは意欲的だ。
俺に負けないように努力すると言っており、剣技と魔術の両面を磨いている。
負けないようにしなくてはいけないのは俺の方なのだが、まあそこは堂々巡りになるので置いておく。
互いに切磋琢磨できるのだから良いことだろう。
いくつかの依頼を受注したところで、職員が思い出したように言う。
「あ、そうそう。次に竜の討伐要請があったら、一緒に参加してくださいよ。鍛練の成果を披露してほしいっす」
「遠慮しておく」
「私は行きたいな」
即答で断ったというのに、ビビが挙手して発言した。
俺は耳を疑いながら尋ねる。
「本気か……?」
「うん」
ビビはやる気に満ちた顔で頷く。
彼女の要望はあまり否定したくないが、これはさすがに危険すぎるのではないか。
しかし、職員が同行するなら安全も確保される気もする。
竜と遭遇する機会など滅多にない。
ビビの将来を考えるなら、別に悪くない提案でもないような……。
無言で悩み抜いた末、俺は肩の力を抜いた。
軽くため息を吐いてからぼやく。
「……竜に殺されないように鍛えるか」
「前向きな考えっすね」
「もう後戻りできない位置まで来たからな」
「分かってるじゃないっすか」
職員が乗り気になって背中を叩いてくる。
炸裂した雷撃で目の前が真っ白に染まった。
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