第56話 死力を尽くして戦い果ててみた
俺と騎士は壮絶な攻防を繰り広げる。
いや、実際には防御なんて存在しなかった。
戦略も技能も何もない。
互いに全力で攻撃だけをぶつけ合う醜い戦いであった。
もう余計なことを考えられない。
出血と魔力不足で意識が朦朧としている。
もう自動回復も切れているのだろう。
まだ立っていられるのが奇跡に近かった。
瀕死となった聖騎士も動きが悪い。
闇属性の魔力と毒で衰弱しているのだ。
早く倒れてほしいが、それは向こうも同じ気持ちに違いない。
「僕はっ、聖騎士だ! こんなところで、負けるわけにはいかない……!」
連続で放たれる攻撃が重い。
防具越しでも激痛を伴うほどだ。
ひょっとすると骨が折れているかもしれない。
ここまでの打ち合いにより、俺の剣はいつ壊れてもおかしくない状態だった。
それにしても、聖騎士の攻撃が苛烈すぎる気がする。
いつの間にか闇属性の乱れが小さくなっていた。
彼の身体を覆う光が安定し、攻撃のたびに俺を侵蝕してくる。
不可解な現象を前に、俺は仮説を立てた。
(まさか……闇属性に適応しつつあるのか!?)
だとすれば、とてつもない才能だ。
土壇場で限界を超えてきたということなのだから。
聖騎士は闇属性を使いこなして、その力を以て俺を仕留める気でいる。
光属性のような速度はないものの別種の脅威だった。
極限状態の死闘の最中、聖騎士の一撃が俺の剣を弾き飛ばす。
そして、喉元に切っ先を突き付けられた。
他の武器を取り出す余裕はない。
そんなことをすれば、瞬時に殺されてしまうだろう。
聖騎士は血だらけの口を笑みの形に歪める。
漆黒に染まる剣を一気に押し込もうとしていた。
――不味い、やられる。
濃密な死の香りが脳を満たし、呑まれそうになる。
その時、声援が俺の意識を引き戻した。
「ご主人、がんばって!」
ビビだ。
まだ俺の勝利を願っている。
彼女は俺を信じてくれているのだ。
職員や治療術師だってそうだ。
この装備を繕ってくれた鑑定術師や武具屋の主人だって同じ気持ちだろう。
ならば諦めるわけにはいかない。
どこまでも意地汚く。
血反吐を垂らしてでも、前に進む。
「うおおおおおぉぉぉぉぉァァァッ!」
俺は叫ぶ。
突き付けられた刃が喉に刺さる……そんなことはどうでもいい。
熱い痛みを振り切って踏み出して、拳に残る魔力を込めた。
聖騎士の顔に戦慄が走る。
そこに渾身の拳を叩き付けて殴り飛ばした。
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