第52話 英雄に反撃してみた
光線を受けた俺は鋭い痛みでよろめく。
反射的に胸部を手で押さえると、外套に円形の穴が開いていた。
縁が焦げ付いており、光魔術の高熱で焼かれたのが分かる。
着込んでいた竜の防具は破損していない。
ビビの付与してくれた風の防御は、少し削れている感覚があった。
聖騎士は余裕の笑みを浮かべている。
彼は嘲るように言った。
「良い防具だな。今ので死ななかったのか」
それを聞いた俺は理解する。
今の初撃は、防具がなければ心臓を貫かれて即死だった。
油断してはわけではない。
聖騎士の力が想定をさらに上回っていたのだ。
単純な術の威力だけではない。
俺が反応できなかったのは、あの自然な動作に攻撃の意志を感じなかったからだ。
あれだけ殺気を見せているのに気付かなかったのはおかしい。
聖騎士はただの剣士ではない。
おそらく何らかの暗殺術も習得しているのだろう。
相手の意識の隙間を狙う技能だ。
初歩的だが俺も似たようなことができるので間違いないと思う。
(厄介だな……搦め手も得意な戦士だったか)
俺はゆっくりと剣を引き抜く。
聖騎士は追撃せずに悠々と立っていた。
その表情にはさらなる余裕がある。
最初の光線で互いの実力差を確認し、わざわざ全力で殺しにかかる相手ではないと判断したのだろう。
その目には嗜虐的な色が滲む。
俺を限界まで叩きのめすつもりなのだ。
真剣勝負ではない。
向こうは公開処刑の場だと認識を改めた。
聖騎士の視線はビビに向けられている。
己の圧倒的な強さを誇示して、彼女を射止めるつもりなのだろう。
(先手を取られたが、悪くない展開だ。聖騎士の油断を誘うことができた)
元より不利なのは承知の上だ。
僅かに生まれた慢心を全力で突くのが俺のやり方である。
この隙を最大限に活かすしかなかった。
俺は風属性と雷属性の同時発動し、予備動作無しに前進した。
隙だらけな聖騎士の目前へと一気に迫り、さらに防壁の指輪を使用する。
勢いを乗せた防壁が聖騎士と衝突した。
「ぐっ!?」
仰け反った聖騎士は反撃の姿勢を取ろうとする。
その前に俺は防壁を解除し、懐から掴み出した小瓶を放り投げる。
聖騎士はすぐさま小瓶を切断する。
中身の粉末が散布したのを見て、俺は魔術の風を起こした。
指向性を持った粉末が、聖騎士の呼吸に混ざって体内へと入る。
咄嗟に息を止めていたが一瞬だけ遅かった。
俺は驚愕する聖騎士に宣告する。
「今のは劇毒だ。死にたくなければ俺を倒してみろ」
それを聞いた聖騎士の顔が赤紫色に染まる。
毒の効能か、或いは恐怖と激昂が混ざったのか。
とにかく聖騎士の心から慢心は抜け落ちた。
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