第51話 決闘を始めてみた
地上に出た俺達は街を進む。
決闘の場所として指定されたのは、冒険者ギルドにある訓練場だった。
戦いで破壊しても修復が容易で、結界で隔離されているため周辺に被害が出にくい。
自分勝手な聖騎士だが、その辺りの配慮はできたらしい。
或いはギルドが仲介の立場として提案したのか。
職員は特に説明せず、俺も迷宮にいたので詳しいことは分からない。
ほどよい緊張が身を包む。
俺は薄汚れた外套を羽織り直した。
一見すると竜の防具が視認できず、何かの騙し討ちになるかもしれない。
些細な期待だ。
そういったものに縋らねばならないほど、俺は決定的な不利を強いられている。
されぞ絶望はなかった。
戦いにおいて足枷になる感情だからだ。
街はいつも通りの雰囲気だった。
聖騎士が滞在していると言っても、住人にはあまり関係のない話である。
決闘の件も当事者以外からすればどうでもいいことだ。
さすがに冒険者の間では話題だろうが、街の空気を一変させるほどではない。
仮に俺が英雄だったら、滅多に観れない対決ということで盛り上がったのだろうか。
実際は地味な冒険者なので仕方ない。
そんな悲しいことを考えてみる。
ギルドへの道を歩く中、職員は鍛練中に何度となく聞いた説明を述べる。
「光魔術の使い手は、全属性の中でも最速です。身体強化に用いた場合、相手に認識される前に攻撃するのも不可能ではありません。他の属性を分解する特性もあるので、生半可な防御は通じないと思ってください」
「分かっている。対策はいくつも用意した。どうにかねじ伏せるさ」
「強気っすね。美女に囲まれて自信が付きましたか」
「然るべき備えがあるだけだ」
俺の気持ちは揺るがない。
後ろ向きな考えなど無駄なのだ。
ここまで来たら全力を出してやり遂げるしかないのである。
間もなくギルドに到着した。
冒険者達がこちらを見てしきりに何事かを囁いている。
不在中にどういった噂が広まっているのか定かではないが、聞いて楽しい内容ではないのだろう。
俺達は無視して訓練場に移動する。
結界で囲われたその場所には、あまり整備が行き届いていない。
半壊した的や、防具を装着した丸太が放置されている。
剥き出しの地面に点々とできた水たまりは、誰かが魔術で作ったのだろう。
大きな窪みや穴もあり、あまり良い環境とは言えないものの、実戦的であると考えれば悪くないかもしれない。
大勢の冒険者が見物する中、中央に聖騎士が佇んでいた。
上等な造りの鎧に剣を装備している。
杖や所持していないが、指輪と腕輪を着けている。
剣術だけではない。
中距離や遠距離でも魔術が飛んでくると考えた方がよさそうだ。
俺の姿に気付いた聖騎士は、殺気を漂わせながら口を開く。
「来たか。姿を見せないから逃げたと思った」
「鍛錬に夢中だっただけだ」
「面白いことを言うな。凡人が英雄に勝てるはずないだろう。その努力をここで打ち砕いてやる」
聖騎士は魔力を漲らせている。
俺とは比べ物にならない質と量だ。
それどころかビビでも届かない。
剣士でありながらも、魔術師を大きく超える魔力の持ち主であった。
ビビ達が離れて見物人の列に入る。
俺は前に進み出て聖騎士と対峙した。
聖騎士はよく通る声で発言する。
「決闘は一方が死ぬか降参するまでとしよう。他の者が手出しするのは厳禁だ。それでいいな?」
「……分かった」
「よし、では始めよう」
聖騎士が何気ない動作で俺を指差す。
そこから放たれた白い光線が、俺の胸部へと炸裂した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます