第50話 たくさんの善意を受け取ってみた

 俺はさっそく竜の防具を着用する。

 意外と軽くて着心地も悪くなかった。

 大きさもちょうどいい。

 明らかに俺の体格に合わせた造りだが、一体いつの間に採寸したのだろうか。

 心当たりはないものの、たぶん職員が何らかの手段で調べたのだろう。

 竜の防具を用意してくれたのは素直にありがたいので、今回に限って深くは問うまい。


 剣を振って動き心地を確かめていると、職員が誇らしそうに補足する。


「ギルドの鑑定術師さんが厳選してくれた素材を、武具屋さんと共同で仕上げました。そこそこ無理を言ったので、二人には後でお礼をしてくださいね」


「分かった」


 ギルドの知人がそれぞれ手を貸してくれたらしい。

 まさかそこまで関わっているとは思わなかった。

 俺なんてただの冒険者に過ぎない。

 向こうもそう考えているという認識だったが、どうやら勘違いだったようだ。

 決闘でしっかり勝利を果たしてから感謝を伝えなければならない。


 それまで黙っていた治療術師が俺に近付いて竜の防具に触れる。

 仄かに光が発せられてすぐに馴染んで消えた。

 手を下ろした治療術師は俺に告げる。


「治療魔術付与。常時回復」


「ありがとう、助かる」


「……後日宴会希望」


 目をそらした治療術師は、少し照れくさそうに言う。

 礼として宴会を開きたいらしい。

 俺は力強く頷いて約束する。


 やり取りを見ていたビビがすかさず竜の防具に手をかざした。

 風属性の魔力が防具に浸透し、鱗の艶を少し変える。


「風の防御を付けたよ。何度か攻撃を防げると思う」


「さすがビビだな。大切に使わせてもらうよ」


「うん」


 ビビが頬を赤らめて微笑む。

 彼女の頭を撫でていると、即座に職員が茶化してきた。


「防具の性能に恥じない戦いをしなくちゃ駄目っすよ?」


「当然そのつもりだ」


 善意に甘えるだけではいけない。

 最終的には俺がなんとかする必要があるのだ。

 そのための心構えは既にできている。


 俺達は迷宮内の仮拠点を出て地上を目指す。

 道中の魔物は他の三人が倒してくれた。

 少しでも俺を消耗させないためだ。

 その気遣いに感謝しつつ、俺も準備運動になるくらいは戦闘に参加する。

 遺跡型の階層を進む途中、職員は唐突に語る。


「あなたのような人柄だからこそ、ここまで来れました。あなたは少し器用なだけの平凡な冒険者ですが、誰かのために進む勇気と覚悟を持っています。地道に積み重ねた成果は、時に英雄をも凌駕するでしょう」


「やけに優しいな。天変地異の前触れか?」


「ははは、本当に雷を落としますよ」


 職員が笑いながら背中を叩いてくる。

 迸る雷撃が一瞬だけ身体を痺れさせてきた。

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