第41話 平穏な暮らしをしてみた
それから俺とビビは穏やかな日々を過ごした。
数日に一度は迷宮に潜り、二人分の生活費をまとめて稼ぐ。
新たな武器の調子はとても良い。
特にビビは早くも使いこなしており、以前とは比較にならない強さを手にしている。
俺はそこまで変化はない。
黒い刃の短剣を使う場面はあまり訪れず、主に全属性の魔術を磨く方向で頑張っていた。
あの短剣は殺傷能力が低い。
刺した相手の属性を変換して魔術を封じるという効果はあるものの、正直そこまで強力ではなかった。
魔物と戦う場合は、素直に他の手段で戦う方がやりやすい。
それでもアンデッドならほぼ一発で仕留められるため、まったく使っていないわけではなかった。
総じて安全かつ堅実な迷宮探索ができている。
迷宮探索を除くと、街でのんびりと休んでいる時が多い。
行ったことのない店で食事をしたり、お互いの普段着を買ったりしている。
以前まではこういう楽しさがあまり理解できなかったが、今はビビがいるので充実していた。
俺が理解できなかったのは孤独だったせいなのだと納得する。
やはり誰かと暮らすというのは心身の健康に良いようだ。
そんなある日、俺とビビはギルドの酒場で昼食を取っていた。
焼き魚を頬張りながら、俺は話題を切り出す。
「旅行に興味はあるか」
「何それ」
「よその土地を巡って観光するんだ。まあ道楽だな。金はかかるが、良い思い出になると思ったんだ」
俺がそう述べると、ビビがいきなり立ち上がった。
彼女はテーブルに両手をついて、前のめりになって即答する。
「行く。いつにする?」
「そんなに行きたいのか」
「うん。早く準備をしよう」
ビビの目がかつてないほどぎらついていた。
別人ではないかと疑わんばかりにやる気が湧いている。
いきなりどうしたのだろうか。
そこまで旅行に興味を持つとは思わなかった。
驚く俺をよそに、ビビは力強く主張する。
「私はいつでも行けるよ、旅行」
「そうか。じゃあ特に用事もないし、すぐに支度をして――」
話の途中でギルドに誰かが入ってきた。
上等な鎧を纏った金髪の男だ。
装備の質や全身の雰囲気からして、明らかに冒険者ではない。
もっと上の身分の人間だろう。
男は入口で仁王立ちすると、室内の全員に聞こえるような声量で叫ぶ。
「ここに死霊術師を倒した冒険者はいるか!」
その一言で場が静まった。
誰もが男に注目し、次の行動を窺っている。
あまり友好的でない視線も混ざっていた。
空気を読まない訪問者に苛立っているのだろう。
剣呑な空気にも怯まず、男は落ち着いた口調で目的を告げる。
「僕は王都の聖騎士だ。邪悪な死霊術師を倒した者がいると聞いてやってきた。ぜひとも会って話をしたいので名乗り出てくれ。もしこの場に不在ならば、他の者からそう言伝をしてほしい」
その要求を聞いた俺はため息を吐きそうになる。
せっかく平穏な日々を過ごしていたのに、なんだか面倒なことが起きそうな予感がする。
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