第16話 属性を調べてみた

 ギルドに到着した俺達は属性検査を頼む。

 担当官として現れたのは、いつもの女職員だった。

 彼女はいつもの調子で挨拶してくる。


「どうもっす」


「なぜお前が担当なんだ」


「そりゃ魔術師っすからね。属性検査となれば出番っすよ」


「初耳だぞ」


「似合わないって言われるんで、普段は名乗らないんすよ。別に魔術師だって吹聴して偉ぶりたいわけでもないですし」


 職員は平然と言う。

 非戦闘員かと思いきや魔術師だとは。

 確かに性格的に似合わないと思ってしまった。

 職員は俺とビビを交互に見やると、状況を理解して頷く。


「今日はビビちゃんの属性検査っすよね。明らかに魔力量が増えてるみたいですし」


「俺も知りたいから二人分で頼む」


「へぇ、魔術師に転向する気っすか」


「戦闘手段の一つとして使ってみたいだけだ。本職にはならない」


 厳密にはビビも俺と同じである。

 肉弾戦はやめず、補助的に魔術を習得するつもりだった。

 こちらの意見を聞いた職員は感心したように言う。


「相変わらず器用なことを考えますね。普通なら失敗しそうなもんですが、あなたなら楽勝っすよ」


「根拠はあるのか」


「今までの活動を見れば一目瞭然っすよ。ねぇ、ビビちゃん」


「うん。ご主人なら大丈夫」


 ビビまでもが自信ありげに言う。

 過大評価だと思うのだが、微塵も疑っていない目をしていた。

 こうなったら期待を裏切らないように努力しよう。

 器用貧乏の意地を見せねばならない。


 世間話に区切りが付いたところで、職員が俺達を案内して歩き出した。

 彼女はギルドの奥の区画へと向かう。


「ささ、こちらの部屋にどうぞ。魔術師への第一歩っすよ」


 移動したのは小さな部屋だった。

 中央の台座の上に透明な水晶が設置されている。

 職員はそれを指差して説明を始めた。


「これが検査用の水晶っす。手をかざすだけで属性が分かるっすよ。試しにお見せしましょう」


 職員が水晶に手を近づけると、黄色い光が灯った。

 暗い室内が明るくなるほどの光だ。

 目を細めて眺めているうちに、職員が不満足そうに手を離した。

 それだけで水晶の黄色い光は消える。


「うーん、今日はイマイチっすね」


「何が分かったんだ」


「光の色が適性のある属性で、光の大きさが魔力量っすね。この水晶だとそこまで精密な測定はできませんが、指標としては十分っすよ」


「なるほど」


 水晶が属性と魔力量を測ってくれるらしい。

 なんとも分かりやすい道具である。

 ここでビビが挙手をして質問をした。


「さっきの黄色い光はどういう意味?」


「雷属性っすね。魔力量は平均より多めって感じっす」


「……なぜギルド職員をやっているんだ。雷属性の魔術師なら、需要なんていくらでもあるだろう」


 俺は思わず訪ねる。

 魔術師であることに加えて、人気の雷属性なんて驚きだ。

 職員は慣れた様子で肩をすくめる。


「あちこちから勧誘されるのが面倒なんすよね。汗水流して戦うのも嫌ですし。そこそこのお給料で暮らせれば満足なので、今の仕事が合ってるんすよ。能あるグリフォンは何とやら、って言うじゃないっすか」


「そうか……」


 素晴らしい才能がある者にも、苦悩はつきものらしい。

 俺には想像もできない部分であった。

 職員は気を取り直して検査を再開する。


「まずはビビちゃんから検査するっすよ」


「よろしく」


 ビビは水晶に両手をかざす。

 その途端、黄緑色の淡い光が室内に広がった。

 職員は拍手をして述べる。


「へぇ、風属性っすか。近接戦闘どの相性が良いので、獣人のビビちゃんにぴったりっすね。光の大きさも一般の魔術師より多いっすよ」


「すごいの?」


「そりゃもちろん。才能いっぱいってことっすから」


 職員は嬉しそうなビビを褒め千切る。

 ビビは俺の手を握って勢いよく振った。


「ご主人。私、すごいって」


「よかったな」


「うん」


 喜ぶビビの姿に癒されていると、職員が俺を促してくる。


「次はあなたの番っすよ」


「分かった」


「緊張してます?」


「そんなことはない。むしろどんな結果になるか楽しみだ」


 俺は期待しながら手をかざす。

 水晶内に赤色が灯った。

 それが青色に変わったかと思えば、すぐに紫色へと変動する。

 さらに黄色や緑や白と次々に切り替わっていく。

 光自体はとても微弱だ。

 今にも消えそうほどで、それが俺の魔力量の少なさを示している。


「何だこれは」


「ほう、まさかの全属性っすか」


「全属性だと」


「ええ、そうっすよ。得意な属性がなければ、苦手な属性もない。万能と言えば聞こえは良いですが、どれも半端になって成長しづらいのが特徴っす」


「散々な評価だな」


「事実っすから」


 職員はあっさりと言った。

 それから彼女は流暢に補足説明をする。


「全属性の適性者は滅多にいないっすよ。複数の属性が扱えるのは珍しくないですが、この水晶での検査は基本的に一つの属性のみしか表示されません。最も得意な属性が強調される仕組みっす」


「じゃあなぜ俺の時は多色の光だったんだ」


「いくつもの適性が拮抗したからっすね。すべての属性が同じくらい得意ってことっす。まあ、魔力量が僅かなんで、そこまで色々できるわけじゃないですが」


「それでいい。今になって強烈な才能が見つかっても持て余す」


「あなたらしい意見っすね。普通なら悔しがるところっすよ」


「身の程を弁えているんだ」


 俺は自信を持って言う。

 なぜか職員は憐みを込めた目線を送ってきた。

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