第11話 鑑定術師に会ってみた
ギルドにある鑑定術師の部屋へと移動する。
ここでは正体の分からない物品を調べてもらうことができる。
手数料はかかるが、その金を渋ると大変な目に遭いがちだ。
用途不明な魔道具を使って自滅する冒険者は決して珍しくない。
初心者に向けた講習でも、正体不明の物を鑑定しないくらいなら捨てることを推奨されている。
まあ、実際は捨てるのが惜しくて持ち帰る者は多い。
だから鑑定術師の存在は重要なのだ。
俺達が部屋に入ると、ハイエルフの女がひらひらと手を振ってきた。
古いローブを着て眠たげな眼差しをしている。
外見年齢は二十代だが、実際はその百倍以上を生きているらしい。
ハイエルフは悠久の時を生きる種族だ。
鑑定の技能も、その長い人生で培ったものだろう。
欠伸を洩らした鑑定術師は、尖った耳を指で掻いた。
彼女は独特の方言で話しかけてくる。
「おお、久しぶりやね。元気してた?」
「普通だな。そっちはどうなんだ」
「客が少なくて退屈やわぁ。もっと鑑定依頼に来てくれへん?」
「知識が増えて依頼する機会がなかったんだ。仲間ができて深い階層にも潜れるようになったから、これからは利用する機会が増えると思う」
俺はビビを見ながら言う。
すると鑑定術師は身を乗り出した。
興味深そうな視線でじっとビビを観察する。
「こいつのお仲間さん?」
「うん。名前はビビ」
自己紹介を受けた鑑定術師は、何かを理解したように頷いた。
彼女は腕組みをして質問を投げる。
「ビビちゃんな。こいつはちゃんとやってるか? 嫌がらせとかされてない?」
「全然ない。ご主人はいつも優しい」
「ほんまか?」
「うん。毎日とてもたのしい」
ビビは無邪気な笑みを見せた。
その様子を鑑定術師は瞬きせずに注視する。
瞳孔が収縮し、相手を射抜くような凄みを発していた。
やがて鑑定術師は元の眠たげな目付きに戻り、頬杖をついて微笑する。
「奴隷契約してるっぽいけど、関係は良好そうやね。うんうん、相性抜群の二人組やな」
鑑定術師が俺に視線を移す。
それからちょいちょいとビビを指差した。
「大事にしたりや。とっても良い娘やで」
「分かっている」
「それならええわ」
挨拶代わりに色々と確認されていたようだ。
この鑑定術師は冒険者の本質を見抜く力がある。
どれだけ取り繕っても看破されるらしい。
俺とビビも試されたのだろう。
そして何らかの関門を突破した。
気が付くと、じっとりとした汗が出ていた。
無意識のうちに緊張していたようである。
俺は謎の木の実を取り出して鑑定術師に差し出した。
「迷宮の宝箱から手に入れたんだが、何なのか分からない。教えてほしい」
「もちろんええけど、まずは鑑定料な」
要求された俺は大人しく金を払う。
迷宮で十数枚の金貨を手に入れたので財布は十分すぎるほどに潤っている。
これくらいの出費は何ら問題なかった。
手数料を受け取った鑑定術師は、懐かしそうな目で金を懐に仕舞う。
「おおきに。金欠小僧なのに成長したなぁ」
「いつのことだよ。というか、同じ話を何度するんだ」
「これでちょうど七十回目やね」
「憶えているのか……」
「ハイエルフの記憶力を舐めたらあかんで」
鑑定術師が得意げに言う。
ビビはなぜか尊敬の眼差しで彼女を見つめていた。
あまり憧れるものではないし、真似できるものでもないと思う。
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