第9話 魔道具を試してみた

 翌日、俺とビビは迷宮に赴く。

 使いまくった分の金稼ぎと、防壁の指輪を試すのが目的だった。


 現在の俺達は砂漠型の階層で魔物と戦っている。

 地面から次々と顔を出すのは大型の蟻だ。

 カチカチと音を鳴らす顎は、人体を容易に切断する力がある。

 さらに突進力も馬鹿にならないため、対処するのが難しい。

 初心者殺しの魔物と呼ばれるのも納得であった。


 周囲には五体の蟻がいる。

 地中の振動が止まないので、まだ潜んでいる個体もいそうだ。

 魔力感知が使えれば数が分かるのだが、生憎とそんな技能は習得していない。

 音や殺気、砂の動きで反応するしかないだろう。


 俺は三体の蟻の攻撃に応じる。

 防御を固めつつ、甲殻の隙間に剣を刺して傷を与えていく。

 地道だが確実な倒し方だ。

 体力には自信があるので、このまま削り切るつもりである。


 しばらく攻防を続けていると、近くの砂が蠢く。

 そして、残る二体と戦うビビのもとへ移動していった。

 気付いていると思うが、俺は念のために警告を飛ばす。


「そっちに行ったぞ」


「任せて」


 ビビは瞬時に跳躍すると、砂から飛び出してきた蟻の頭部に強烈な蹴りを食らわせる。

 そこから甲殻の亀裂に剣とナイフを刺し込んで掻き混ぜることで、頭の内部を完全に破壊した。

 墜落した蟻は痙攣するばかりで復帰することはなかった。

 その横にビビは軽やかに着地し、残る二体の蟻を倒しにかかる。


 危なげない立ち回りだった。

 戦闘を経験するたびに洗練されている。

 動きづらいはずの砂漠でも、ビビの俊敏性は損なわれていない。

 優れた脚力と二刀流を存分に活かして戦っていた。


(俺は自分の心配をすべきだな)


 意識を目の前の蟻に戻す。

 厄介な敵ではあるが、俺も中堅どころの冒険者だ。

 たとえ複数でも、単調な攻撃を繰り返す魔物に遅れは取らない。

 とにかく死にたくなかったので、特に盾を使った防御術は徹底して鍛えてきた。


 これでも単独で冒険者をやってきた身だ。

 一通りのことは自分でこなせるようにしている。

 情けない姿を見せると、ビビに笑われてしまうからな。

 主人としての威厳を披露したいと思う。


 そんな風に意気込んでいると、蟻の一体が突進してきた。

 余裕をもって回避できるが、俺はあえて待ち構える。

 適度な間合いになったところで装着していた指輪の力を発動させた。


 俺の眼前に半透明の防壁が出現した。

 蟻は無防備に激突してよろめく。

 防壁には傷の一つも付いていなかった。

 一方で蟻の頭部は割れて体液が漏れ出している。

 防壁はかなり硬いようだ。


 俺は負傷した蟻にとどめを刺すと、残る蟻も堅実に片付ける。

 その頃にはビビの戦闘も終わっていた。

 追加の蟻が来ないことを確認してから俺達は合流する。


「やったね」


「ビビが敵を引き付けてくれたおかげだ」


「ご主人の動きも良かったよ」


 俺達はお互いに褒め合う。

 連携するのも手分けして戦うのも慣れてきた。

 魔物に応じて作戦を変えることで、常に有利な展開に進められている。

 実に良い調子だ。

 蟻の死骸も大量に手に入った。

 甲殻を持ち帰れば、それなりの値段で売れるはずだ。

 ひとまず宿代の心配は解消されそうである。

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