死神の育て子

伸夜

第1話

「今日も寒いなー」

 ひと仕事終えて帰宅途中のこと。息を吐けば白い息が広がる。街灯がない夜道で頼りになるのは、ぼんやりと浮かぶ月明かりのみ。

 僕は人間という生き物にあこがれていたのかもしれない。

 死神という生き物は死が近い人間のもとへと向かい命を回収し輪廻へと戻すことが仕事だ。人間は延命だとか治療だとかで生きながらえようとする。僕は過激派ではないから悪いことだとは言わないし、生きようということは生き物の本能なんだと思う。

「はあー」

 人間は死神の姿を視認することができない。なのに世の中には死神という逸話が存在している。

「僕みたいなやつのせいなんだろうな」

 死神の姿は人間が見ることはできないが例外も存在している。僕のように人間に擬態することができる死神もいるということだ。誰でも擬態できるわけではない。もちろん擬態しなければ寒さを感じることはないし、夜道を歩く必要もない。人間と死神の住む世界というのは分かれていて、そのまま死神の世界へ帰ってしまえばいいのだから。

 「おや、もう一つお仕事ですか」

 死神へ仕事を伝えるのは自然界にいる動物だ。

 「時間外労働じゃないですか。まったく」

今日の仕事は既に終えていた。あとはこの道を進んで家に帰るだけだった。

「早く行けよ」

 仕事を伝えに来た真っ白なフクロウが僕の頭を小突きながら次の仕事を伝える。

しろがねちゃん痛いよ」

他の死神は自然界にいる動物に仕事を伝えてもらっているが僕の場合は自分で使役したフクロウが伝達役だ。

「暖炉が恋しいなあ」

そんな文句を言いながらも僕は仕事へと走った。


「はい、到着っと」

銀についていった先は普通の一軒家だった。

「早く入れ」

「分かってるよ」

人間の姿から死神の姿へと形を変える。人間のままだと鍵のかかったままの家に入ることはできないが死神であれば話は別だ。そのままドアを通り抜ける。

「うわあ、すごい血」

家の中に入ると女が何者かに刺されたようで倒れている。床にはその傷口からあふれ出た血でおおわれていた。まだ息はあるようだが、恐らく傷は内臓にまで達している。

屈みこんで女の顔を覗くと瞳の中の光が消えようとしていた。

「し…んやを、こ…の、コ…を」

女は僕に向かって隠すように抱いていたのか赤ん坊を差し出してきた。

「僕が見えているのか?」

この家に入るために本来の死神に戻っているから人間には見えないはずだ。今まで死神をしていてこの姿を見ることができた人間はいなかった。

「あり…が」

僕が赤ん坊を女から抱き上げると安心したのかそのままこと切れてしまった。気になることは多くあるが死神としての仕事を果たすために、死神の代名詞とも言われる鎌を取り出すとそのまま女に振り落とした。鎌によって体が分断されることはなく魂だけが引きはがされた。

赤ん坊は血まみれであるが母親が守ったのであろう。死に至るような大きなけがは見当たらない。この状況から考えて事件に間違いはないが、子供に血を付けることで死んだと思わせることができたのだろう。

「お前、よく泣かなかったな。優秀」

頭を撫でてやると大声で泣きだした。

「ちょっと褒めてやったのに泣くなよ」

赤ん坊をあやしながら部屋の中を見て回る。父親がいた痕跡は存在していないようだった。あと数日もすれば異変を感じた住人が通報して警察が訪れることは間違いない。死人の命を刈ったあとのことは死神には専門外だ。

「お前はどうしたい?」

赤ん坊は相変わらず泣き止まない。もし警察が来るのが遅くなったとしたらどうだろう。この赤ん坊は保護してもらえるが生きているかわからない。人間は水を2日間のまないだけで死ぬそうだ。何より母親に託された。

「コハク、そいつはなんだ」

「育てることにした」

「そんなこと許されるわけが…」

「別に人間の子供を育ててはいけないという決まりはないだろ?」

人間の赤ん坊を拾った。僕は人間にあこがれていたのかもしれない。





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死神の育て子 伸夜 @shinyayoru9

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