24 事情聴取

 後日、収監されたキースの事情聴取の様子をベルナルドが知らせてくれた。


 事情聴取にベルナルドを同席させるというのは、速記人を置くのと同義であることを王都巡察隊は知らなかったとみえる。おかげで、アデュレイと俺は供述調書の複写を丸ごと読むことができた。


 供述調書とは、事件担当官が被疑者等から事件に関する供述を聴き取り、その内容をまとめた書面のことである。実際には、事件担当官が供述者に質問をしていく形で供述させるのだが、書面の形にまとめるにあたっては、特に際立たせたい事項を除き、ほとんど供述者が一人でしゃべっているかのような体裁で記録していくものだ。


 裁判においては書証にもなる、重要な文書である。実際に自分が遭遇した事件の供述調書を読む機会など、滅多にあるものではない。


 いや。滅多にあってほしくはないものであった。




供述調書


国籍 エインディア


住居地 不定(エルムント・プレイスに所有していた居宅については二百三十二年十二月八日付け契約解除)


爵位 男爵位返上につきなし


職業 無職


氏名 ハリー・ヘイズ(別名 キース・ランブール)


性別 男


生年月日 二百九年八月三日



 上記の者は、二百三十二年十二月十日、ヘイヴン、カート・ストリートに所在する中央拘置所において、シファール伯爵所有の古代遺物盗難事件及びベル・ストリートの古物商殺人事件について、任意以下のとおり供述した。



一、私は、ハリー・ヘイズと申します。本日は、私が現在滞在中の中央拘置所・施療棟の管理官から、シファール伯爵所有の古代遺物盗難事件及びベル・ストリートの古物商殺人事件について、吟味役のご担当官が事情聴取を行うと聞いて参りました。今から、私自身の意思に基づき真実をお話しします。



二、私の身分事項について、冒頭に記載のとおり間違いありません。私の身分を証明する物として、中央拘置所入所時に出生事項等申告書を提出いたしましたので、ご担当官において私の直近の雇用主であるシファール伯爵から内容証明をお取りいただきたく、よろしくお願い申し上げます。



三、シファール伯爵所有の古代遺物盗難事件について申し上げます。


 二百二十九年当時、私がシファール伯爵配下の傭兵として雇用されていたことや、ユニット内で特にチームを組んでいたペリー・カーチス(以下「ペリー」という。)及びダニエル・イーシュ(以下「ダニエル」という。)と知り合った経緯等については、昨日ご担当官にお話ししたとおりです。


 私はシファール伯爵配下の傭兵として雇用されていた約三年の間に、魔物から採取した素材や遺跡からの発掘品の一部を、およそ一月に一度の頻度にて正規の購入手続きを経ずに窃取し、主として故買屋のジェイムズ・イアン・アチソン(以下「ジェイムズ」という。)を経由して売却し、不当な利益を得ました。このような不正を働いて得た利益の総額は、大金貨で換算すると、三年間で約十枚に相当する金額でした。



四、私は単独で盗みを行っていたところ、二百三十一年十二月某日、チームメイトのダニエルに盗品の所持を見つけられ、口論になりました。ペリーとダニエルに対し、私は不正を働いて得た利益を共有することを提案し、盗みに加担するよう教唆しましたが、二人とも応じず、このために口論になりました。


 同日夜、私は本件について重要な話があるといってペリーとダニエルを領内の影谷の森に呼び出し、不意打ちで斬りつけ、ペリーを殺害しました。ダニエルにも深手を負わせたものの、とどめを刺す前にダニエルが馬で逃走したため、私も馬で追跡し、併せて伏せておいた猟犬に追わせてダニエルを馬ごと崖から転落せしめました。ダニエルの死体は確認していませんが、影谷から上がってきた者の話はかつて聞かないので、私が殺したことになると思います。


 ペリーの死亡については確認し、ペリーの所持品をすべて窃取した後、ペリーの死体をダニエルが落ちた地点から崖に投げ落としました。また、些細なきっかけで犯罪が露見してはいけないと思い、犯行に用いた猟犬も斬り捨て、同様に崖から落としました。



五、ペリーとダニエルが私に強く自首を勧めた際、考える時間が欲しいと述べて一日の猶予を得たものの、もし私が自首に応じない場合は私の犯罪行為を彼らが領主に申し出るであろうことが予想されたため、私の犯罪を隠蔽するためには彼らを殺害するほかないと考え、前述の凶行に及びました。



六、ベル・ストリートの古物商殺人事件について申し上げます。


 本年十二月一日夕刻、私はベル・ストリートの国際倶楽部において設けられたシファール伯爵のサロンに参集しました。


 本当は、シファール伯爵の領内で盗みや殺人を行っていたのでこの集まりに参加したくはなかったのですが、グロスター伯爵の子息から随行を命じられたため、やむなく参加しました。というのは、二百三十二年一月ころ、大金貨七枚に相当する金品をグロスター伯爵に支払うことによって爵位及びキース・ランブールという新しい氏名を得た経緯があったので、日常的にエグザム家の方々の言うことには逆らえないという関係ができあがっていたからです。


 この集まりはシファール伯爵が主催したもので、シファール伯爵、ラザラム子爵、金鷹騎士団のブライアン卿、グロスター伯爵のご子息であるハーヴィー卿、エルフェス人のミスター・ベルティエ、そして私が出席しました。



七、このとき席上で交わされた会話から、私はシファール伯爵の追及の手が王都内に及んでいることや、教区警察と王都巡察隊双方の助力を得て本格的な捜査を始める予定であることなどを知るに及びました。それに加えて、私がハリー・ヘイズであることが露見するのも時間の問題と思われたため、私はシファール伯爵が重要視している古代遺物を早急に手放すことが肝要であると判断しました。



八、本年十二月一日午後九時ころ、国際倶楽部を離れた私は、徒歩でエルムント・プレイスの自宅に戻り、捜査開始後に重要視されると目される古代遺物五点を持って、再び徒歩でベル・ストリートに戻りました。



 ここにおいて当職が別紙「シファール伯爵が返還を求めた物件一覧」を被疑者に示し、一点ずつ指差しながら読み聞かせを行ったところ、被疑者はこれら全てについて自身が盗みジェイムズの店に持ち込んだ品物であることを認めたため、これに被疑者の供述内容、署名及び署名の年月日を付し、本調書末尾に添付する。



九、前項同日、私は自宅から古代遺物五点を持ち出し、徒歩でベル・ストリートに戻りました。それから古物商のジェイムズの店を訪ねたので、恐らく到着は午後十時過ぎであったのではないかと思います。もとより同日午後十時ころ、同店を訪問する約束をしていたので、ジェイムズは一階店舗にて私を待ち受けていました。彼は私に到着が遅いと苦情を述べましたが、店内に招き入れてくれました。店内に、彼のほかに人がいるようには見えませんでした。



十、私はしばしばこの店に来たことがあり、店内に陳列された品物のなかに刀剣があることを知っていましたので、彼に台帳を取ってくるよう告げて、彼がこちらに背を向けた機を狙って陳列商品のなかから両刃の直刀を取って背後から心臓の辺りを刺突し、殺害しました。殺害してすぐ、自宅から持ち出した古代遺物五点を陳列棚に配置し、もとからそこで売られていたかのように偽装しました。さらに、押し込み強盗の仕業に見えるよう、適当に商品を荒らして現金を盗みました。



十一、犯行後、とにかく急いで現場を離れました。店の施錠については考えが及びませんでした。扉は閉めた記憶があります。武装協会の夜回りの声が聞こえましたので、少し遠回りして、王立病院の南側を回るルートを取って徒歩で自宅に戻りました。



十二、私はシファール伯爵が教区警察と王都巡察隊双方の助力を得て本格的な捜査を始めることを知ったため、故買屋から私の悪事と正体が露見することを恐れて、ジェイムズの殺害に及びました。公示人のニュースを聞いて、最近、都内で強盗や殺人の事件が毎週発生していることを知っていましたので、押し込み強盗を偽装すれば、私が真犯人だとは思われないだろうと考えました。



 以上のとおり録取し、被疑者に対して調書を示しながら読み聞かせを行ったところ、被疑者は内容に付加したい部分があると申し立て、以下のとおり陳述した。



十三、第五項及び第十二項において、私は自身の犯行を隠蔽するために殺人の罪を犯したと申し上げましたが、それは恐怖により錯乱したゆえのことであって、正しい判断ではありませんでした。正常な精神状態であれば、そのような結論に至らないということは、今ではよくわかります。心から反省しており、ご遺族に対してお詫び申し上げたい気持ちがあります。


 どうかこの心情をお汲み取りいただき、被害者の皆様のご冥福をお祈りするために、光の教団の修道院にて終生巡礼の方々をお慰めするお役目をお申し付けいただきたく、何卒よろしくお取り計らいのほどお願い申し上げます。



 以上のとおり録取し、被疑者に対して調書を示しながら読み聞かせを行ったところ、被疑者は内容に誤まりなき旨申し述べ各葉の欄外及び本調書末尾に署名した。



二百三十二年十二月十日


被疑者 ハリー・ヘイズ


前同日


事件担当官 ピーター・オークス


事件担当官 マイケル・ヤング


立会人 シファール伯爵


プリシラ・サーラ・ディアナ・エヴァンス・ミドルトン・ポーレット・シファール


立会人 王立図書館長


ベルナルド・ローラン・ティオス・ダンドレイ

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