魔王の宣告

「くぁっ!?」


 新魔王派の連中との戦闘になったが、先頭にいた狼男をすぐに追い詰めた。と言っても、向かってきたから普通に首を掴んだだけなんだけども。


「お、おのれっ!」

「……お前、偽物だろ」


 掴んでみてわかった。骨の情報によると狼男は全身の血流を活性化させて身体能力を飛躍的に向上させる能力があるらしいが、この狼男にはそれを使う様子がない。それに、明らかに弱すぎるし魔力が不安定に揺れている。

 偽物なのは確かだが、どうやって偽物を生み出しているかが肝心だろう。


「こ、殺して、やる!」

「黙ってろ」


 偽物には最初から興味が無いので、手を離して次元の穴で知らない場所に送ってやる。殺すのは簡単だが、一々相手にしているのも面倒なので俺も知らない場所にでも送ってやれば簡単にことが済む。

 さて、さっさと偽物を作り出す能力を持っているだろう奴を探そうか。と思ったら、ミエリナが魔族の群れに突っ込んで無双していた。まぁ、ミエリナに特殊な能力はないが、人間としてはありえないぐらいに魔力の扱いが上手いから、身体能力の強化に使えばあんな風に拳の一振りで魔族が吹き飛んでいく。魔法使い枠とか言ってたのに、普通に前線で拳を振るっているのはいかがなものか。


「ま、さっさと終わらせるか」


 戦争が終わった後に魔族領を支える民は必要だが、この戦場にいる奴らの半数ぐらいなら死んでも問題ないだろう。

 身体の中で暴れている魔力の1割を解放して掌の上で圧縮させる。次元が歪むぐらいの質量になっているが、所詮は魔力の塊なので簡単に消せるから問題ない。ミエリナは俺がなにをしようとしているのか気が付いて、目を輝かせながら退避した。


「消えろ」


 俺の魔力総量1割分の魔力弾は、放たれた瞬間に音を置き去りにして地平線の彼方まで消えていった。地面を削り、直線状にいた魔族たちを全員この世から消しながら飛んでいった魔力弾が遠くで弾けた。


「すっごい派手! 本当にロイドさんは研究対象として困らないわ!」

「おい」


 数キロ先で大爆発を起こしたが、あっちは海だった気がするから問題ない。ヨーグルの支配海域でもないから怒られることもないし、新魔王派の連中も今の一撃で大半が戦意喪失状態のようだ。


「情けない……俺に不満があって立ち上がったんじゃないのか?」

「ひぃっ!?」


 一番近くにいた魔族にそう言ってやっても、悲鳴を上げながら逃げるだけ。そんなんだったら最初から挑むな。

 魔力総量の1割を失ったが、俺の場合はすぐに回復するから実質的にコスト0だからいいのだ。後ろでミエリナが今のはどうやったのかとうるさいが、それも無視して問題ない。


「さっさと魔王と勇者の所にでも行くか」

「えー!? もっと見せてくださいよ!」

「ほい」


 流石にこのまま騒がれると面倒なので、さっき俺が放ったものと同じ魔力を圧縮しただけの球体を生み出した。さっきのは掌以上のサイズがあったけど、今作ったのは指先にちょこんと乗る程度だ。まぁ、これでも魔族を数十人ぐらい消し飛ばせるぐらいの威力はあると思うが。

 ミエリナは興味津々といった様子でしばらくその球体を観察していたが、これが魔力を圧縮しただけのものであると気が付いた瞬間につまらなさそうな顔をしていた。


「能力の秘密に迫れると思ったのに……」

「こんなのミエリナでもできるだろ」

「いや、できますけど……こんなの使ったら魔力がすぐに底をついちゃいますよ」

「俺はつかないけどな。すぐに回復するから」


 つまらなさそうにいじけているが、実は魔力がすぐに回復するのは体質ではなくて能力であることは喋っていない。多分、言ったら根掘り葉掘り聞かれるから言わない。


「ロイドさん、向こうの方で女神様の光の魔法が見えました」

「ん? あぁ……アーティリアが魔王を倒してくれたんでしょ。さ、行こうか」


 次元に穴を空けてアーティリアの元へと移動すると、地に伏せる2人の魔族とアーティリアに剣を突き付けられているデブがいた。


「やぁやぁ……君が不死の魔王を倒した新しい魔王かな?」

「ひぃっ!? ゆ、許してくれっ!?」

「まだ何も言ってないだろ」


 こんなデブが狼男の偽物を作れるとは思わないし、脳筋に入れ知恵ができるとは思わない。これは見た目に対する偏見とかではなく、感じる魔力の問題だ。

 正直言うと、最初は偽物も入れ知恵も骨がやったんじゃないかと思ったんだけども、骨の能力である幻影には実体がないので触れることはできない。さっきの狼男の偽物は、俺が触れることができたから多分だけど骨じゃない。


「さ、お前たちに入れ知恵したが誰なのか、喋ってもらおうか」


 倒れている狼男とトカゲは、まともに喋ることもできないだろう。やっぱり勇者ってすごいな。こんなんでも魔族の精鋭なんて言われている2人を相手にして、こいやって五体満足で立っているんだから。大分魔力は消耗したみたいだけど、まだまだ元気って感じだ。

 玉座から引きずり降ろして頭を足蹴にしながら、デブに聞いてみる。


「し、知らないっ! 本当に知らないんだ!」

「本当か? 適当なこと言ってるとサクっと殺すぞ? しっかりとした情報を言っても殺すんだけどさ」

「ひぃっ!?」


 しょうがないだろ。現魔王として、反逆者の新魔王派なんて許す訳にはいかないんだから。慈悲を見せたところで、舐められるだけだ。


「こいつらに、か、担ぎ上げられただけなんだっ! 本当になにも知らないっ!」

「なら、こいつらが誰かと喋っているのを見たりしたか?」

「だ、誰か?」

「そうだ。誰でもいい……怪しいヤツとだよ」


 このデブは本当に何も知らされていないんだろうなとは思っているが、全く情報を持っていないことはないだろう。なにせ、担ぎ上げられたんだから。知っている情報も少しくらいはあるはずだ。


「に、人間と……喋っていた」

「人間? どんな?」

「顔は見てない! け、けど……人間と喋ってたんだ!」

「……ロイドさん」

「ふぅむ……」


 どうやら、魔族が俺に反感を抱き、存在が気に入らないと思っていることを知っている奴が人間側にいるらしい。まぁ、魔族側の情報を少しでも持っていれば、魔王が人間で気に入らないなんて思う奴がいることはすぐにわかるはずだが、ここまで大胆に動いてくるのは……王国の上のほうにいる奴だろうな。


「騎士団か、貴族か……はたまた教会の連中か」


 どっちにしろ、動かしているのが王国なら問題はないだろう。

 こっちに向かって来ている王国軍だって、半壊させるつもりなんだしな。



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